「ストレスたっぷり、存分に召し上がれ」ドッグマン KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
ストレスたっぷり、存分に召し上がれ
従順な犬に成り下がるな!信じて徹するな!ヘラヘラすんな!牙を剝け!大口開けて嚙みつけ!ああほらもう言わんこっちゃない…。
溜まるストレス積もるフラストレーションを楽しみ、やるせなさのどん底に舌を這わせて味わう映画。
ドッグマンことマルチェロ、彼のビジュアルや話し方動き方からして、とにかく小物感が半端じゃない。(失礼で申し訳ない)
とにかくお人好しでうだつの上がらない人。
普通にしてても不幸や不運を招きそうなオーラというか、疫病神的な雰囲気というか。
小さい娘に犬を任せて外へ出たとたんに娘が噛まれて大怪我を負うんじゃないか、チワワの為に引き帰った先で見つかるんじゃないか、目を逸らした瞬間に殺されてしまうんじゃないか。
いつどこで何が起こることかと常にハラハラしながら観ていた。
シモーネの理不尽な言い分、圧倒的な暴力には恐怖しかない。
俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの。なぁ俺たち、友達だよな?
シモーネのような人に絡まれた場合の正しい対応法をずっと考えているけど、本当に全然わからない。
ただでさえ少ない彼の隙を突いて脳天に銃弾ブチ込むくらいしか思いつかない。
細かい「嫌なこと」がどんどん重なり、選択がヌルく詰めの甘いマルチェロにイライラし、慈悲のカケラも無い仕打ちに唖然とする。
終盤、大きな一歩を踏み出してみるマルチェロのとある行動に大興奮。
その先の更に数段階の展開にまた顔をしかめたり拳を握ったりほんのり涙してみたり。
正直、あのまま飼い殺しのほうが一気にホラー的になって最高だったんだけど。
強靭な設備だったらな〜と惜しく思う。
この映画の狙いがそこにないことは承知の上。
容易に想像できるこの後。
虚構に向かって叫びかける姿が痛々しく、長回しどアップで見せられる、達観にも近い表情が悲しい。
何を思ったんだろう、何を考えていたんだろう。
どこから何を後悔すればいいのだろう。
しんどい。
犬や娘に見せるパッとした笑顔がとても可愛くて、故に降りかかる不条理に本気で鬱々とする。
離婚したママからのよそよそしい態度がまた悲しい。挟まれる娘の身にもなってよ。
犬とパスタを分け合い食べ合うシーンが印象的。
フォークやお皿をシェアしてることに少し驚いたのは私だけ?
犬のヨダレが付いた食べ物を私は口にしたくはないけど、そこに全く抵抗のないマルチェロは本当に犬が好きで愛があるんだろうな。
映画の端々から自分の犬にも他人の犬にも向ける親愛の情が感じ取れる。
バイクの轟音がトラウマ。