劇場公開日 2019年6月1日

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「誘拐は悲劇しかもたらさない」誰もがそれを知っている 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0誘拐は悲劇しかもたらさない

2019年6月17日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

 予告編以外の情報なしで鑑賞したが、ストーリーは解りやすくて戸惑うことはない。家族と親戚が集まってくる長閑なシーンからはじまり、G線上のアリアが印象的な結婚式とそれに続く宴会はトラディショナルで楽しそうだが、記念のビデオをドローンで撮影するところは現代的で、スペインの田舎にもハイテクが入り込んでいる様子が窺える。
 事件発生以降はホームドラマが急にサスペンスに変わった感じで、観ている側も少し緊張する。起承転結のお手本のような作品で、登場人物同士の関係性はタイトルの意味も含めて徐々に明らかになる。このあたりの作り方は実にうまい。
 登場人物それぞれが何を考えているのか、どういう性格なのかが解ってくると、この村の人間関係がどのようであるかが浮かび上がる。結婚式に招かれた人々、そして来なかった人々。家族と友人の間に金が絡んできて、愛憎だけでなく損得の感情も生まれ、人間関係はさらに複雑になる。
 役者陣は喜怒哀楽の表情豊かなラテン人を自然に演じていて、ドラマの世界にスッと浸ることができた。誰がどのような決断をするのか。葛藤と相克でドラマは立体的に構成されていく。そのへんがとても面白くて、飽きることがない。登場人物が決断を迫られる場面が何度かあり、違う決断をしていればどうなったのかと考えてみたりする。登場人物と一緒になって観客も迷う。
 誘拐は悲劇しかもたらさない。邦画「64(ロクヨン)」でもそうだった。人間の欲望は他人を陥れてまで自分が楽をしようとする。その結果人間関係は破綻し、自分も他人も不幸になるだけだ。それでも誘拐は起きる。中には国家による誘拐もある。人間はどこまでいっても救いようがないのだ。

耶馬英彦