「人間関係の機微は強烈だが、道具立てが弱い」誰もがそれを知っている andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
人間関係の機微は強烈だが、道具立てが弱い
2018年カンヌ国際映画祭オープニング作品であり、アスガー・ファルハディ監督の作品であり、ペネロペ・クルスとハビエル・バルデムの夫婦共演。全ての牌は揃った、という感じではある。
物語は...正直ミステリーものとして観ると雑すぎる。犯人に繋がる伏線が(見逃しているのかもしれないが)決定的なのはワンシーンしかないし、あの展開はミステリーの常道に反している。
だがしかし、アスガー・ファルハディ監督が描こうとしたのはそこではなくて、人間のエゴや、噂や、秘密。究極の人間関係なのではないかと思う。
誰も知らない(が誰もが知っているともいえる)秘密を娘救出のためにある種「利用」するペネロペ・クルスの強かさ。結局過去を清算しきれぬまま、全てを失うハビエル・バルデム。彼は哀れだと思ってしまった。全てに翻弄される役回りが割り振られている。そして全てを受け容れているようで、泰然としているようで、全く無力なリカルド・ダリン。
結局周りの家族も全てにおいて負の感情や実際の負債を抱えており、それが極限で噴出してしまう様がある種冷酷に描かれる。
前半は楽しいスペイン映画みたいなので、後半のあの陰鬱さ、幸せそうだった人びとが探り合う様、負の人間関係をひたすら観せられる感じ。
ファルハディ監督は「負の人間関係」を巧みに描くことには成功していると思う。ただ、ミステリーとしての道具立てがやや単調な所為で、映画自体に緊迫感がやや足りなかった気がする。分かりやすくはあるのだが、分かりやすすぎるというか...その点においては「セールスマン」の方がある種極限の緊張状態を示している気がした。