「まさかGACKT様の主演が成立するなんて。」翔んで埼玉 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
まさかGACKT様の主演が成立するなんて。
埼玉県をディスり(蔑み)まくる映画である。
何をか言わんや。いわゆる"ださいたま"は、関東に住んでいる人間には常識である。いまさらこれで怒る、埼玉県人はいない。そもそも東京そのものが田舎者の集合体なので、エセ東京人もあらためて苦笑するくらい。
原作は、1978年から現在まで100巻を数える長寿ギャグ漫画「パタリロ!」の作者・魔夜峰央による漫画である。しかし作品は1982~83年のたったの3回、「花とゆめ」(白泉社)の別冊に掲載されたのみ。作者が当時の埼玉県に住んでいた間だけ、自虐的に描いた限定的な作品である。
昭和作品なので、原作では平仮名の"さいたま"になっていない。劇中の"X JAPAN"(千葉県)は存在すらしていないなど、映画化にあたっては、ネタをだいぶアップデートさせている。
日本テレビ「月曜から夜ふかし」で紹介された、"さいたま貧乳問題"(=埼玉県人は日本一バストが小さく、けれど日本一巨乳が好き)など、これまた知られたネタをこれでもかと投入している。
オープニングで"武蔵野国(むさしのくに)"の起源が出てくる。もともと埼玉県と東京都、横浜市、川崎市は、"武蔵野国"として一緒だった。そこから埼玉が切り離された悲劇的な史実として紹介される。むしろ埼玉県は、千葉、茨城より格上だという理由付けで使われることもある。
この映画は、ある意味で1都6県の関係性を知る、広義の「東京入門」である。"へぇー"と思えるとしたら、"さいたま県より田舎者"(笑)。または日本在住の外国人にもウケるかもしれない。劇中で、ディスりもされない"栃木県"のほうが、同じ"海ナシ県"として哀しい。
監督は「テルマエ・ロマエ」シリーズの武内英樹。テルマエでは、顔の濃い(彫りの深い顔の)俳優を"ローマ人"として揃えたが、今回はキャラの強い俳優を揃えてぶつけてきた。
二階堂ふみとGACKTのW主演というキャスティングが成功している。GACKT様のキャラが主演でハマる映画なんて、あるとは思わなかった。前人未到の連勝記録を続ける「芸能人格付けチェック」の要素もある。
役柄の幅広い経験値を持つ、二階堂ふみにとっても、男性役、ボーイズラブは、ひとつの新しいキャリアとなる。TVバラエティ番組への出演もキャラクター構築に影響しているのだろうか。見事に吹っ切った演技を見せる。
さて、"他人より上位に立ちたい"という、人間の競争原理はヒエラルキー(階級制)を無意識に作り出す。
多くの終末ディストピア映画で、絶望的な格差社会は描かれてきたが、本作はそんなシリアスなものではない。かといってテルマエのような知的な笑いがあるわけでもない。バカバカしい時間を無駄だと思わない包容力が必要な作品。
何かをディスるよりも、横並びが好きな日本人のコンプレックスをあおることが、笑いの源となっている。
東京の映画館で笑いが起きるのは、埼玉県よりも同じ都内での地域格差ネタだったりする。西葛西はカレー臭いとか・・・(インド人いじり)。
転校生の麻実 麗(GACKT)は、アメリカ帰りで容姿端麗なというだけで、"埼玉県所沢市出身"を隠して、"東京人"として振る舞う。これも日本人の海外コンプレックスの一端である。
エンドロールで流れる、はなわのオリジナル曲「埼玉県のうた」がいちばん面白い。ヒット曲「佐賀県」で知られるが、実は出生地は埼玉県春日部市という事実。
(2019/2/22/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ)