「勉強にはなるけど楽しめるとは言えない」ピータールー マンチェスターの悲劇 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
勉強にはなるけど楽しめるとは言えない
この映画で描かれるのは、今から200年以上も前のイギリスで実際に起こった虐殺事件である。
衣装や暮らしぶりは確かに時代を感じさせるものだが、マンチェスターの人々の暮らしに流れる「政治との距離感」は現代とあまり変わらないように感じた。
ただ、それ以上にイギリスの歴史に疎い状態だと背景の説明が足りないように感じる。
映画の中でも少しは触れられているが、どうしてここまで選挙に対する熱量が高まっていたのか一応解説じみたことを書いておく。
ナポレオン戦争が終戦したことで退役軍人の帰還により失業率が高まったこと、記録的な冷夏で穀物自給率が下がったこと、この2つの要因で国民の暮らしがかなり苦しかったことがベースにある。
さらにイギリスの選挙区は16世紀から変わっておらず、人口の増減が反映されないままだった為、人口が少ない農村地域では有権者の買収による不正選挙が横行していた。
つまり、金持ちが金で権力を買い、さらに自分たちに有利な制度を作ったり維持しようとしたりする世の中だったのだ。
苦しい状況と腐敗した政治への不満から、改革への期待が高まり、改革を訴える弁士の演説を応援する大集会が開かれることになる。それがこの映画で描かれているマンチェスターでの集会だ。
内容については現代とも通じるし、よく分かるのだが映画として面白かったか?と聞かれるとかなり微妙な仕上がりだと思う。
「面白く作ろう!」とか「盛り上げよう!」という気持ちを持って作られていないので、映画的な感動と興奮を期待すると「なんじゃこりゃ」と思う。
真面目に描き過ぎて記録映像を見せられているみたいに感じてしまうのだ。普通選挙を求めて活動している人がいたり、女性の政治参加を求めて活動している人がいたり、当時の社会を余らず描いているものの、そこは虐殺事件の本筋ではない部分なのでむしろストーリーを重くしてしまっている。
すごく勉強になる、という意味では世界史の授業中に観るなら良いかもしれない。