「二人三脚、夫の鏡」ビリーブ 未来への大逆転 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
二人三脚、夫の鏡
クライマックスの4分間のスピーチ、なぜ勝訴出来たのか悩みました。
シビアな税法であること、原告が男性であること、親の介護は子の務め等はアドバンテージです(拾い出した夫君の手柄)、判例主義の法廷で過去からの呪縛ではなく時代への適応こそが立憲主旨と再認識させること・・・(法学者で女性、ルースならではの視点)等でしょうか。
「ドリーム」も観ていたので時代背景は分かりましたが法律用語や文化的コンテキストなどを字数の限られた翻訳字幕からくみ取るのは困難です。訴訟趣意書をタイプしたアシスタントがSEXの頻出に嫌悪しGenderに変えたらと進言します、タイトルの「On the Basis of Sex」は法律用語です。(日本人は入国カードのSEX欄にsometimeと書くというケーシー高峰さんの笑い話を思い出しました)
合衆国憲法(United States Constitution)も正確には修正条項を含めますのでAmendmentが付きます。判事が「憲法に勤労女性(Working Woman)という言葉は無いが・・」と言っているのは修正前の原憲法です、だから「自由(Freedom)もなかったわ」と返す意味が出てきます、つまり加筆することで成り立ってきたことへの強調です、問いかけは爆弾での脅迫にも動じなかった民権擁護派ドリス判事(Gary Werntz:監督ミミ・レダーの夫が演じています)からの大きな助け舟でしょう。
ルースが娘のジェーンと言い争う「アラバマ物語」(米国で900万部のベストセラー小説)のくだりは象徴的です、法の不条理、倫理の板挟みが争点ですがどちらも一理あります、そっと娘のなだめ役に徹するパパのなんと素敵なことでしょう、短いエピソードですが後にジェーンも母と同じ法律家になった背景が伝わります。街中でセクハラに幻滅する母に「無視しているだけじゃダメ行動しなくちゃ」と背中を押します。これはアラバマ物語の著者ハーパー・リーの名言(Real courage is when you know you’re licked before you begin, but you begin anyway.行動する前から叩かれてしまうこともあるけれどそれでも行動するのがほんとうの勇気です)に多くの子供たちが影響を受けたのでしょう。
ユダヤ家系は迫害と流浪の歴史から持ち運べない財産より知性、子供の教育に力を注ぐようです。
ルース本人は性差別について「何も特別なことでなく、いま踏んでいる足をどけてほしいだけ」と言っています。医大入試の性差別や上野千鶴子さんの東大入学式でのスピーチなど話題になっている今の状況をみるにつけ根の深さを感じます。
ミミ・レダー監督はナタリー・ポートマンを使いたかったようですがフェリシティ・ジョーンズもオックスフォード出の知性派女優ですから要は好みでしょう。興業的には厳しいようですがハリウッドは社会派ドラマ製作は映画人の良心との気概からでしょうか、力作が多い気がします。