ゴールデン・リバーのレビュー・感想・評価
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ホームドラマ
予告で感じたようなサスペンスはない。
ただ、あんな予告じゃなければ、も少し評価は上がったと思う。
荒野を往く兄弟の話。
歯ブラシの習慣もないような野蛮な時代の話なのだけど、悠久な時間に思いを馳せる。
昔も今も、人の営みに必要なモノはあまり変わってないのだなぁと思う。
手段が変わっていってるだけなのだろう。
彼らは殺伐とした荒野を旅し、母がいる実家に帰る。殺し屋稼業なんてしてる荒くれ者なのだけれど、母親の前では子供に戻り、兄であり弟の立位置に戻る。
かなり野蛮なホームドラマで、体裁を整える余裕のない時代背景だから、内面に目が向く感じ。彼らが旅する荒野も、生業も、クモもクマも化学式も、それがもたらす成果も、様々なものに置き換えられる。
今も昔も。
インターネットがあってもなくても。
生きていくのは大変だなあと思う。
その人生を豊かにしてくれるのは友であり、チャレンジであり、その他のものはただの副産物なのだと思える。
兄弟は助け合い、母の元へ帰る。
人類はずっと繰り返してきたんだなぁと。
「大変だなぁ、兄弟。頑張っていこうぜ」と、俺の前で背中を丸めながら階段を上るサラリーマンに、ふと仲間意識を抱いた。
そんな作品だった。
仏教西部劇
小説の映画化だけあって、とても文学的な西部劇でした。
EliとCharlie Sistersという殺し屋兄弟が「提督」から引き受けた依頼は、何かを盗んだとされるWarmの殺害。Warmの追跡を探偵Morrisが先に開始しているとのことで、とりあえずMorrisと落ち合おうとします。
単なる追跡劇ではありませんでした。
Sisters兄弟の生い立ちと関係性は、喧嘩しながらも助け合う道中のきめ細かな人物描写から伝わります。原題通り主役はこの兄弟であり、明らかになるWarmの正体や、Warmの理想郷に感化されるMorrisは、生業を変えるか変えないかで揉めていた兄弟を大きく変える最大のきっかけという感じです。邦題やポスターは金塊の奪い合いでも想像させるようで、イメージが異なります。
確かに一攫千金を狙うのですが、それにより得たいものは何なのかと問われます。Eliは愛する人との安定した平和な暮らし、Warmはユートピアの実現、Morrisは真の自由でしょうか。Charlieは豪遊しか思いつかなかったようですが、好かない奴だったMorrisとも打ち解けます。狙って殺し、狙われてまた殺す、その繰り返しで生きてきた兄弟も、殺し屋とターゲットで構成される4人の不思議な共同生活に、居心地の良さを見い出しているようでした。
MorrisとWarmも、元々は探偵と調査対象ですが、共同経営者となり友情を育みます。Warmは特にMorrisを気に入っているように見えました。生き延びるためとは言え、自分の命を狙って来た探偵や殺し屋を受け入れてしまうという信じ難いほどの懐の深さですが、壮大で立派な理想を掲げるだけはある人物です。
MorrisもSisters兄弟同様に父親への反発が仕事に影響しているという共通点がありました。
短絡的なCharlieの行動によって迎えるこの共同体の結末はまたもや意外な悲劇でした。手っ取り早く富を得たいという沸騰した欲望が不可逆的な破滅をもたらします。情に厚く優しい兄Eliは、弟を死守するために、嫌気がさしていた殺しを頑張らなければならなくなり、一方殺し屋として名を上げたかったCharlieは片腕を失い意気消沈してしまいます。
とにかくお兄ちゃんの愛情深さが際立っていました。ぶち壊す弟と立て直す兄。最初は悪ふざけで泣きマネをしていたCharlieが、最後は本当に泣いてしまう。そんな時こそしっかり弟を支えて守らなければと心に誓ったでしょう。いつの間にか馬に名前を付けていたり、慣れない歯磨きでMorrisのお手本を見つめたりと、何とも良い感じでした。
長旅により不本意な方向へ変わらなければならなくなった兄弟。
そして追っ手もいずれは途絶える…。
諸行無常の果てに着いた先は出発点。
そこには変わらないものがありました。
個性派俳優を集めた奥深いドラマでした。
機会があればもう一度観たいです。
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(原題は単に「シスターズ兄弟」という意味ですよ…。本作全体に散らばる皮肉っぽいジョークのひとつです。女々しいような名字ですが、実際は、泣く子も黙る凄腕殺し屋兄弟な訳です。犯罪組織?のボスが、The Commodoreと呼ばれているのと同類のテイストかと。)
秀作!
殺し屋「シスターズ兄弟」
久しぶりの西部劇。追いつ追われつの追跡劇。
まあ、銃撃戦は冒頭のもの以外は少し地味だけど、たまにはいいですね。
舞台はゴールドラッシュに沸き立つ時代のオレゴン州から始まる。"提督"に雇われた凄腕の殺し屋「シスター兄弟」は、一仕事終えて新たな依頼を受けた。狙いは金を目指して西に向かうある男。その男は、金掘りの一獲千金の秘密を持って西に向かっていて、すでに"提督"の部下を見張りに付けて追いかけさせている。兄弟は、彼らを追って追跡を始めるが、道中色々発生。
弟を心配する優しい兄にジョン・C・ライリー。多数の作品に出てる名バイプレイヤーで、最近だと「キングコング」とか「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」などにも出てましたね。いい味でてます。オレオレ調でヤンチャな弟役にホアキン・フェニックス。今年公開予定の「ジョーカー」楽しみな個性派イケメンです。
目的の男ハーマンに張り付くモリス役はジェイク・ギレンホール。最新のスパイダーマンで、敵役でした。ケイシー・アフレック風の優しさあふれながらも諦観が感じられる雰囲気がいいですね。
兄弟に狙われるハーマン役は、「ヴェノム」で裏の顔を持つ大富豪の大企業社長をやっていた、リズ・アーメット。中東系の顔立ちが、少し西部劇には違和感あったかな。
展開は少しダルなところもあるのだけど、何気ないそれぞれの会話やちょっとした揉め事などが、不思議と気を引いてラストまで引っ張られた。ステレオタイプな要素満載だが、それが安心して見られた要素だったのかもしれない。万人受けではないと思うが、しっかり作られた作品で、地味だけど奥行きを感じられる映画だ。
哲学的な味わい深い作品
原題「Sisters Brothers」の意味は冒頭のシーンですぐに解る。しかしSistersという名字を聞いたことがなかったのでちょっと面食らった。一度耳にしたら忘れられない名前である。そのせいもあってか当時のアメリカ南西部では有名な殺し屋として名を馳せていたという設定だ。
本作品はフランス人監督による西部劇である。流石にひと味違っている。西部開拓時代の人々の精神性は、まず生き延びること、次に大金を稼ぐこと、それから先は好きなように生きることだ。生き馬の目を抜く生存競争の中で、正気を保ちながら殺し殺される日常を生き延びるのは並大抵ではない。おそらく数え切れない沢山の人々が命を落としたはずだ。殺すことを厭わず、良心の呵責も感じない粗暴な人間たちだけが生き延び、中でも飛び抜けて冷酷な人間が成功者となり指導者となっていく。殆ど原始時代である。
さてシスターズ兄弟は兄弟の絆だけを信じて賞金稼ぎの殺し屋を続けているが、殺るか殺られるかの毎日に明日がないことはふたりとも解っている。しかし望む将来は異なる。
兄イーライには馬に名前を付けて可愛がる優しさがある。名前を付けるという行為は家族を増やすことで、必ず愛着を生む。愛着は煩悩であり生への執着を強める。世の人々はイーライと同じように子供やペットに名前を付けて、家族という幻想を楽しんでいる。守ってやらなければならないという不文律さえ生じる。
対して弟チャーリーは非情だ。馬は馬でしかない。移動のための道具であり、怪我をしたり死んだりしたら別の馬に乗るだけだ。人間関係は命令する者と服従する者、殺す者と殺される者に分かれている。自分は殺す側、命令する側になりたいと願っている。
イーライは人を殺すことに躊躇いも迷いもないが、とどめを刺したあとに首を振る仕草には、この世の不条理を身を以て体現する人間のやるせなさが滲み出ている。不細工な大男という見かけによらずナイーブな一面を持つ主人公を、名優ジョン・C・ライリーが繊細に演じてみせる。ホテルのトイレに驚くさまは無邪気と言ってもいい。
作品はゴールドラッシュ時代のギラギラした欲望にまみれたスラップスティックだが、そこかしこに人生に対する問いかけがあり、フランス人監督らしい哲学的な側面を感じさせる。
マカロニ・ウェスタンのようなニヒルなタフガイは登場せず、ガンファイトはあるもののそれよりもヒューマンドラマに重きを置いたような、今までにないタイプの西部劇で、テンポよくストーリーが進んで楽しく鑑賞できると同時に、少し立ち止まって人生について考えさせられるような、味わい深い作品だと思う。
物語の素材、主要キャストのキャラクター設定も良い西部劇の佳作
最強だが何とも愛おしい殺し屋兄弟
原題:The Sisters Brothers
「ディーパンの闘い」でカンヌを制したフランスのジャック・オーディアール監督。彼の初の英語劇かつ西部劇ということで期待半分、不安半分で臨んだが、これは正にアメリカンテイストな秀作!
変な題名(原題です)だと思って観始めたが、すぐにジョン・C・ライリーの兄とホアキン・フェニックスの弟からなる「シスターズ兄弟」の物語だとわかった。ホント紛らわしい姓です。
時は1851年、兄弟は政府の役人と思われる提督の命を受け行動する最強の殺し屋だったが、オレゴンからサンフランシスコへと流れ、ゴールドラッシュの波に飲み込まれた。
ボロボロになってたどり着いたエンディングの情景が秀逸!優しくて愛しくて、ファンタジーとして昇華した。
俳優陣では兎にも角にもジョン・C・ライリーが素晴らしい。彼の代表作になった。
何処まで行っても辿り着けないのは仕方ないことなのだろう。
感動の名作西部劇
ドローンと西部劇
ドタバタ4人組の可笑しく悲しい冒険物語
闇夜の銃撃戦で幕を開ける。
乾いた発砲音、赤く飛び散る火花、「ディーパンの闘い」のリアルな銃撃戦を思いださせ、期待が増す。
シスターズ兄弟は名うての殺し屋。
兄イーライ役のジョン・C・ライリーが原作の映画化権を持っていて、兄弟のどちらかを演じることを条件としたらしい。
「シカゴ」での芸達者ぶりが印象的だった人気バイプレイヤーだが、今回は主演。
最近では「キングコング 髑髏島の巨神」で良い仕事をしていた。
弟チャーリー役のホアキン・フェニックスとは似ても似つかない兄弟。
ま、ホアキンは実の兄リヴァー・フェニックスとも似ても似つかないが。
二人のキャスティングに合わせて、兄弟の設定を若干変えている。
躊躇せず相手を撃ち殺す非情さの裏に、実は心優しさを秘めている兄イーライ。
かつてショールをくれた憧れの女教師への想いを募らせていて、娼婦にその役を演じさせる場面は、滑稽で切ない。
酒好き女好きで粗暴な弟チャーリーは、実は提督を転覆させる野望を持っていたりする。
殺し屋稼業をやめようなどとは思ってもいない。
自分が兄をコントロールできると思い込んでいるところが、愚かだ。
つまりこの兄弟、どちらも頭が切れるどころか少しずつ足りないから面白い。
先乗りしてターゲットに近づき、殺し屋を誘導する案内人モリス役に、ジェイク・ギレンホール。
「ノクターナル・アニマルズ」での、元妻に回りくどい復讐を試みる作家役が良かった。
どちらかというと、ホアキン・フェニックスとジェイク・ギレンホールが兄弟と言われた方が違和感ないかも。
手記だか日記だかをつけている。
手紙しか通信手段がない時代、移動先ごとに殺し屋兄弟への手紙を残して、次の行動を指示する。
これを、モリスの寝返りの誤魔化しと発覚のサスペンスを演出するキーアイテムにしているところが絶妙。
ターゲットは、化学者(?)のワームという男で、リズ・アーメッドが演じている。
この人の本職はラッパー?
最近いくつかの映画に出演していらっしゃる…
このワームが理想の民主主義を語り、モリスが感化されていくあたりを映画では強調して描いているが、結局二人が命を落とすに至って、無念さを感じさせるのに良い演出になっている。
兄弟が提督が放つ追手から逃げるサイレントのスラップスティックは、スピルバーグっぽい演出で面白かった。
障害物のない荒野を馬で逃げながら、後ろの追手と撃ち合っているのなんて、何で追う側のタマは当たらないんだ?…なんて。
ワームが開発した薬品が何なのか知らないが、あれで金を短期間で大量に採取すると、環境汚染も甚だしいことになるのでは?
ゴールドラッシュで集まった人々は、恐らく少し下流にいて、川を生活の中心にしているだろう。
いくら塞き止めたとしても、下流の人々に影響しないとは思えない。
ガンファイトはいくつか描かれているが、この西部劇は最強の敵との対決が待っている類いの映画ではない。
ヤンチャが過ぎてボロボロになった兄弟が、母親のもとに戻って安息を取り戻すまでのオハナシ。
家の中をカメラが360°パンする演出が素晴らしい。
あ、ルトガー・ハウアーだったのか、あの人!!!
馬に乗りたくなる
4人の人間模様が織りなすサスペンスかと思いハラハラしてたけど気苦労でした。リズアーメッドはいい人のふりして…馬を殺したのはもしや…いえいえ、本当にいい人でした。あっさり4人仲良しに。楽しそう。
理想に目覚めたひとたちが夢破れてしまって哀しい。しかも仲間割れではなく調子に乗ったばかりに。
倒すべき父はなく、母の待つ家へと帰っていく。弟は片腕を無くしてようやく帰ることができた。現代の西部劇は男性性や父性と無縁ではいられない。
あんな大自然の中を馬で駆ける人生も送ってみたい。
歯磨きを初体験して気に入ってるのかわいい。
良い映画
西部劇映画です。
ガンアクションもありますし、金を掘り当てて…みたいなストーリーで、派手なメリハリのある物語かなと思っていたんですが、期待していたのとちょっと違ってかなり地味です(笑)
正にアメリカの開拓時代のお話で、成功を夢見てヨーロッパ大陸からからやって来た人々の、無知、野蛮、愚かさ、欲深さなど、洗練された生活や人生などから程遠い生き方を淡々と描きます。
また、我こそはとのし上がろうとする人々だけでなく、力こそ正義の時代から、理性を働かせてもっと平和で理想的な社会を模索する人々の姿も描きます。
*この邦題と予告編は、観る側の期待を裏切るようなタイトルと内容でした。つまり、ゴールドラッシュの時代、一攫千金を夢見た4人が目先の欲に負けて、仲間割れを起こし、ドンパチした挙句…云々の様な、スリリングなストーリーを予感させるものでしたが、全く違います(笑)
*原題は、"The Sisters Brothers"。Sistersは姓です。
「スライド」を味わう見事な作品
原題はThe Sister Brothers、つまりシスター兄弟の物語。
兄弟なのにシスターって?!
そう、本作は、こういうズラし(事態のスライド)がたくさん出てくる。
シスター兄弟は名の知られたガンマン。
提督と呼ばれている土地の実力者に雇われている。
兄にジョン・C・ライリー、弟はホアキン・フェニックス。
このホアキン・フェニックスがいい。ほんと、相変わらず隙のない演技をする役者だ。
シスター兄弟は砂金を採取する方法を発見したという化学者を探して殺すよう、提督に依頼される。
だが、殺すはずだった化学者と仲間になってしまう。
これもスライド。
化学者を追う途中で兄は毒グモに襲われ、顔がかぶれる。
しかし終盤、兄だけが化学者の薬品でかぶれる被害を受けずに済む。
これもスライド。
荒くれ者の弟よりも、実は兄のほうが凄腕のガンマンだった。
これもスライド。
このように本作は、観る者をミスリードさせておきながら、そこから事態をスライドさせていくのだ。実にうまく。
化学者は砂金を原資に西部に理想のコミュニティを築きたいと考えている。
だが、最後に兄弟が行き着くのは母の待つ実家で、これまた、旅のゴールがスライドされる。
本作はシスター兄弟のロードムービーと言っていいと思うのだが、では、旅のスタートは何で、ゴールはどこか?
スタートは弟の父親殺しであり、それは母親を救うためでもあった(兄弟を迎えた母親の態度から、そう推測される)。
弟には父殺しの罪悪感があり、以後、心を荒(すさ)ませていく。
一方、腕が立つ兄には、それを弟にさせてしまったという罪悪感がある。
ゆえに弟は飲めない酒に溺れ、兄は酒に酔うことができない。
(ラスト、だから生家に戻った兄弟は酒で祝うのではなく、コーヒーを飲む)
旅の出発点は、「提督からの化学者殺しの依頼」だと思わせておきながら、実は「父殺し」へとスライドされるのである。
そうであれば、旅のゴールは生家しかない。
ここが本作の巧みなところで、そこがゴールになるとはまったく予想をさせない。
しかし、上述の通り、どんどん事態をスライドさせていき、このゴールに着地させた。
提督は死に追っ手はもう来ない。
彼らにはメイフィールドから奪った財産と砂金があり、お金に困ることはない。
兄弟にとって、旅を続ける理由はもうなくなった。
このように破綻なく旅をゴールさせた本作の脚本には感嘆する。
終盤、兄弟と提督の対決シーンを見たかった気もする。ストーリーとしては、間違いなく、そのほうがカタルシスがあった。
(盛り上げておいて、提督が死んでいた、というのも“ズラし”である)
でも、そうしなかった、というのは、これはそういう映画ではない、つまり、一見、西部劇のフォーマットを用いながらも、「ラストで決闘」という、いわゆる西部劇ではないよ、ということだろう。
これまた、西部劇あるあるをスライドさせている。
旅には、いつも思いがけないことが起こり、事態はスライドしていくが、いつか旅は終わる。
このメッセージを、このような作品に仕上げたオーディアール監督は、やはり、一筋縄ではいかない。
期待してたんだけどねぇ
う~ん
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