「嘆きの母」サスペリア KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
嘆きの母
「何が何だかよく分からないけどとにかく怖いし嫌だ」というオリジナルのサスペリアから、「恐怖はないけどとにかく凄く強く気持ち良い、話は何となく分かる気もする」なサスペリアに進化。
ホラーとしてはショックシーンが畳み掛けのオリジナルの方が遥かに好みだけど、少なめのショックシーンのインパクトが半端じゃない今作もなかなか好き。
前衛的なコンテンポラリーダンスを「美しい、かっこいい」と思うか、「気持ち悪いけど目が離せない」と思うかでこの映画の受け取り方が割れそう。
私は後者なのでパフォーマンスシーンの全てに胸がザワザワしてたまらなかった。
オルガ退場後のスージーのソロダンス、その衝撃はトップクラス。永遠に観ていられる。
そして唐突で強制的なボディサスペンション。好き。
マダム達は普段はわりと普通の先生然としているけど、彼女たちだけの場になった途端の超ハイテンションが気味悪い。
水面下の派閥争いもチラリと見え隠れしたりして。
スージーの人格がかなり強めなのが面白い。
登場人物が受ける恐怖の追体験というのがほぼないのが新鮮。
もうやめて勘弁してと苦しむよりも、儀式の成功と大きな覚醒を本気で望みながら観ていた。
最後の表情はオリジナルと合わせているように思える。
何よりも強烈な儀式本番、それまでのダルさを大いにふっ飛ばす最高のシーンだった。Isn't Arrrrt!!
醜いを通り越した肉体も立場の変化も血祭りパラダイスも全部好き。
オリジナルで物足りなく思っていたものがここに凝縮されていたと思う。本当に感謝。
ただ、一つだけ、画面を真っ赤にするタイミングはもう少しズラして欲しいと切に思う。せっかくの描写は丁寧に見たかった。
新キャラおじいちゃん博士の立ち位置は絶妙。観客目線に近いキャラ。
一番まともな事を言っているのに無下にされ続けた挙句の最悪の扱い。かわいそうに。
別荘の壁に刻まれたハートマークとイニシャルが切なく美しい。
少しでも救われただろうか。
想像以上に長い上映時間、恐怖演出も衝撃もあまり多く挟まれないのでどうしても間延びは感じる。
ここまで崇高なつくりだとは思っていなかった。
正直求めていたものとは少しズレていたのは否めないけど、これはこれでアリなのでオールオッケー。
「インフェルノ」の要素も所々感じるのが面白い。観てないけど「サスペリア・テルザ」の要素も入っているんだろうか。
魔女三部作を丸ごと解釈して昇華させた形なのかな。
2019.2.1 再鑑賞 追記
I know who I am!!!!!
初鑑賞時にはふんわり追っていたストーリー、改めて考えながら観るとズンと響いてくる。
前回は間延びを感じたけど、今回は一切無駄の無い洗練された流れに感じる。
難解だと思えたシーンも理解できたり、ちょっとしたことを覚えておいて後に答え合わせをしたり。
夢のフラッシュバック、示唆される母親からの抑圧と虐待。
マダム達の言う「私たちの夢を見せている」は洗脳的だけど、それよりスージーの向上心や抑圧された環境からの解放を望む心のほうが強く、洗脳を超えて全て飲み込む強さを感じた。
「ファック(獣の)」と言い切る言葉の強さがたまらない。
再生のダンスを踊るシーンで床に強く引きつけられた時、その地下にマルコスを連れて来ていたらしいけど映される手は最後に出てくる痩身のスージーの式神のような奴のもので。
あの時に彼女を産み出したのかなと思う。
オリジナルと重なるものも多いサラの受難のシーンがとても好き。
足音を聞き、カウントしながら歩くさまに興奮した。
針金地獄は観られなかったけどそれより痛みを感じる公演裏の骨折。絶叫。強引な治癒。
公演後にちゃんとブランと心で会話できているスージーの、完全に準備出来ました感。
その時点から儀式の際までちょっと引いて見えるブランは、想像以上に心意気の強い彼女に少し恐れていたのだと思う。
アンバランスな平穏が保たれなくなる不安も。
大団円の儀式はやはり圧巻。
内臓を手に持って腕をズンズンやる振りと組体操のテノールボイスソングは積極的に真似していきたい。めちゃくちゃクセである。大好き。
脇の踊り子としてガンガンに踊りまくっていた生徒達の翌朝の会話が呑気で面白い。ただの二日酔いならいいのにね。
ジャバザハットババアことマルコスの気持ち悪すぎる肉体、フィギュアにして頂戴。
マザー・マルコスとマダム・ブランの相殺と崩壊、政権交代からの政権交代、I am Mother...の大きな快感に恍惚。
自らの身体を慈しむような姿が美しい。
全身を破壊されてもなお生かされたままの者が求める死を与えてくれる慈悲と、旧体制を支持する厄介者に死を与える容赦のなさの両立に痺れる。
散々な目にあったクレンペラー博士の元へ出向いた時の、「娘達がやったこと〜」という口調からもうスージーは完全に嘆きの母なんだと思い知らされる。
幻とはいえ愛するアンケに会えて博士は少しでも幸せだっただろうか。
スライスした梨はあの後ちゃんと食べたんだろうか。
自分の中で前回より「サスペリア」を期待する気持ちはなくなり、「このサスペリア」に向き合う姿勢になったためか楽しさが倍増して本当に面白かった。
些細な言葉にも仕草にも気を付けて観るのが楽しい。神経はすり減るけど。
しかし歴史的背景の暗喩に関しては、この物語にそれ重ねてしまうのがどうしても好きになれず。
ブランとクレンペラー博士とマルコス、相反する三人を同じ役者が演じるというかなり示唆的なキャスティングはたしかに凄いけど正直どうでもいい。
何でもかんでも含めば良いというわけでもないと思う。
ダンスの持つ力や魔女達の不気味さ、統一を壊していく一人の女性の成長譚と大いなる目覚め、ビジュアルと映像力、全てひっくるめた気持ち悪くて気持ちいいホラー映画としてそのまま受け入れたい。