「何故こんなにリメイク版が素晴らしいのか。」サスペリア ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
何故こんなにリメイク版が素晴らしいのか。
結論から申しますと、私はオリジナル版より好きです。
そして、近年観た全ての映画を上書きしてしまうような強烈な印象を残された作品だ。
本作のリメイク版「サスペリア」はオリジナル版が撮影されていた1977年のドイツという時代背景、ダンスと魔女といった要素がそれぞれ巧みに構成されており、「君の名前で僕を呼んで」での、ギリシャ彫刻を想起させるルカ・グァダニーノ監督の人間の身体の美しさや官能性の表現が、本作ではダンスに置ける人間の身体でのそれに置き変えられ、さらにそのダンスによる官能性と、恐怖・死が対比されている。
監督の持ち味であった表現が、見事にホラー表現として応用されているのを観て、素直に感銘を受けた。
また、ベルリンの壁の目の前に建つ館の配置、ドイツ赤軍によるテロが頻発するというニュースを挟み込むことで、国家や政府という大きな流れに抑圧されたものの存在を意識させている。その象徴のように今回の魔女は設定されている。
こういった背景がしっかりと描かれているため、魔女という虚構の存在が現実のものとして浮かび上がってくる。
ラストに嘆きの母であったスージーによって救いがもたらされるといった展開は、魔女というよりはキリスト的な普遍的な愛を感じた。監督もインタビューでは「この作品は永遠の愛についての物語」と明言している。なのでオリジナル版サスペリアとは思想が全く違う別物の作品だというのがラストで明かされる。
私は日本アニメの「魔法少女まどか☆マギカ」もイメージした。まどマギの新房監督もダリオ・アルジェントのサスペリアに影響を受けた作家の一人で、魔女に食われる(魔女化してしまう)運命にある女の子に、救いの安らかな死を与えるという展開は同じである。あれも主人公はラストで愛を与える存在になる。
しかし、エンドロール、エピローグシーンをみてその考えすらも覆される。
ルカ・グァダニーノ監督はエンディングシーンがとても重要だと至るところで語っている。
クレンペラーは罪の意識から救われたが、同時に愛する妻の記憶も失った。これって、果たして本当に彼は幸せなのか?
唯一無二の母となったスージーは神なのか悪魔なのか。
とても議論を呼ぶ結末である。
エンドロールでスージーが触っていたのは、映画の世界と我々の現実との境界であるスクリーン"画面の縁"のように思った。そして薄っすらと笑みを浮かべるスージー。ぞっとするシーンだ。
また、エピローグシーンはdeadline.comのルカ・グァダニーノ監督へのインタビューより、「その人物は、何かを探している。それが何なのか、ぜひ考えて欲しい。」と答えている。
章仕立ての構成、映画ビジュアルのパッケージングは映画ファンとしては嬉しい限り。未だに干渉後の余韻に浸っている。劇場公開しているうちに何度が足を運びたいと思う。