「本(活字)好きに捧ぐ…」Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男 森のエテコウさんの映画レビュー(感想・評価)
本(活字)好きに捧ぐ…
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アクションもCGも、ましてや3Dもない純文学的な映画。
日本が幕末を控える頃、大英帝国では産業革命が落ち着き、アヘン戦争に勝利する中、社会が貧困と成功に二分されつつあった。
アメリカ大陸に歓待されるほどの売れっ子作家になったディケンズは、スランプを脱出すべく新作に取り組むのだが…
邦題や『クリスマス・キャロル』からのイメージで観ると肩透かしをくう。
ファンタジーではあるかも知れないが、エンターテイメントではない。
自己の才能と直感を信じて出版社と仲違いをし、借金をして己で挿し絵師を雇い、版元に掛け合う。タイムリミットは6週間、クリスマスまでに出版することがベストセラーになる必要条件。
その絶体絶命な環境で、天才は正気と狂気のバランスを失っていく。
狂気ゆえに現れた「スクルージ」は天才の魂の闇の体現だろう。
「君となら傑作を書ける!」という言葉は、自分自身との対話である。
正気を失った天才は、家族、友人、周りの親しい人々を苦しめ、傷つけ、自分をも追い詰めていく…
ついに幼少期に繋がる自己の闇を見つめ、自己の分身と思えるスクルージの為の名のない墓石を目の前にして、自問自答の末にたどり着いた歓喜とは…
この映画は、作家の産みの苦しみを通して、言の葉の持つ力と、今をどう生きるかという命題を描き出している。
映像作品であるが、本好き、活字好き、物語が好きな皆さんにこそ響く映画だと感じる。
「愛と恥の間で揺れながら生きるのが人間さ」この台詞、字幕オリジナル脚本ではどのような文になるのだろう〔日本語吹替版にて鑑賞〕
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