「人生における大事な出来事の意味が解るのは「そのとき」ではない」追想 しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
人生における大事な出来事の意味が解るのは「そのとき」ではない
シアーシャ・ローナンの初体験シーンを観るのは、これで3度目だわ(「ブルックリン」「レディ・バード」)。
これぞ女優。
ほんとうの人生においては1度しかないことを、女優は何度も演じる。
しかし、まあ、これだけ立て続けに主演映画が封切られるとは、どれだけ仕事してるのか。
いま、売れっ子であることは間違いないけど、彼女に合った“いい仕事”を選んでるなあ、と思う。
さて。
チェジルビーチの長い浜を、2人の男女が歩くシーンから本作は始まる。原題は On Chesil Beach。
男はエドワード。少し粗野だが歴史好きな青年。女はフローレンス。クラシック音楽を学んでいて、いつかホールで演奏するのが夢だ。
2人は恋に落ち、ついに結婚。
ところが新婚旅行先での初夜の些細な行き違いから、別れてしまう。結婚期間は6時間。
ときは1962年。ネットもAVもない時代。世の中はまだまだ保守的。
こういうトラブルってあったんだろう。
ベッドの後、フローレンスはホテルを飛び出してしまう。エドワードは追うがチェジルビーチの浜辺で口論となり、別離。長い浜の上、対角線上に2人が離れていくショットが印象的。浜は、そのまま人生を象徴している。長い長い浜を、それから2人は別々に歩く。
若さゆえの不寛容。
ほんの小さなことから、人生の重大事を喪う物語。
だが、そうと解るのは、若者たちがもう少し年を重ねてからだ。
後日譚が印象的。
男の経営するレコードショップに小さな女の子が訪ねてくる。
ふとした会話から、その子はフローレンスの娘だと分かり、そして、フローレンスがエドワードを忘れていないことが分かる。
ラスト。
夢だったホールのステージに立つフローレンス。あれから45年が経ち、彼女にはもう孫までいる。そのステージを見るエドワード。
その後、2人は逢うのか?
映画は、そこまでは描かない。
余韻を残すエンディングである。
音楽はクラシックばかりかと思っていたら、舞台はロックが花開く60年代イギリスで、時代を映す選曲も楽しめる。