「エレ片コント太郎ツッコミハイライト@Sep.23」追想 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
エレ片コント太郎ツッコミハイライト@Sep.23
原作未読。しかし所謂、“童貞あるある”みたいな内容なのだが、テーマとしては『覆水盆に返らず』といったところなのだろうか。
ただ、大変風光明媚なセシルビーチのロケーション、時間軸の長さ、それによる歴史の変遷みたいなものが背景に埋め込まれていて、美しく、叙情的に、そしてメランコリックに描いている作品である。まぁ、結局は主人公の男の儚い自分史なのだが・・・。
でも、自分としては同じ男としての目線として大変共感を覚える、というか断然肩入れしてしまうのである。
構成としては結婚初日の短い時間の間に、それまでの新郎新婦のそれぞれの生い立ちや馴初め、愛の育みがカットバックのように差し込む編集である。これ自体の編集方法はそれ程ストレスを感じない。しかし、二人とも初体験だったことから、その幸せへのアプローチがはっきりとUターンへと切り返してくる。その大事なところのきっかけである、女の過去の父親との舟の中での出来事が、しっかり描かれず、そのモヤモヤ感が、ずーっと引き摺ってしまうのである。原作もそうなのか、それとも映画オリジナルなのかは不明だが、ここをはっきりしてくれなければ、この男のこれからの人生に対しての思い入れが変わってしまうのだ。勿論、その後、女は子供を3人も設けることになるので、その潔癖症は克服されたことは容易に想像が出来、だからこそ、あの時、最後に折角女が手を差し伸べたのに、男はそれを意地で切り離してしまうことなどせずに・・・なんていう思いがもっと重層的な感情で彩ることができるのにと思うのだが。ここが有耶無耶だと、単に男の間抜けさばかり強調されてしまう。父親に自慰の手伝いをさせられたとかの原因による、PTSDとかならば、愛情と奉仕のバランスが取れない若い男ならではの青臭い懐かしさが、ラスト前の“C列9番“のシートへと誘う流れになるのだと思うのだが・・・
それと、結局、男は歴史学者には成れなかったこと、中古レコード店で働くことの運命が、すっかりカットされてしまっている点が腑に落ちない。そこまでロックにのめりこんでいたのかに説得感が感じられなかった。いくらBGMが、Tレックスやチャックベリーだったとしてもそれはあくまでも時間軸を表現する小道具の域を出ないから。
ま、色々文句は付けたけど、しかし総じて今作品の文学的な作りは大変興味を持って鑑賞できた。最後の男の涙ながらの拍手は、余りにも悲しく寂しく、そしてだらしなく、可哀想な印象を鮮明に観客に植え付け、そして決してハッピーエンドではない、胸を締め付ける辛さをもたらしてくれた。鑑賞後の心の機微を揺らし続ける今作品のレベルの高さに拍手である。