「原作モノの作家性の帰属について」若おかみは小学生! うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
原作モノの作家性の帰属について
原作、テレビ版ともに未見です。
レビューの異常ともいえる評価の高さにつられて、「見てみたい」と思い、ケーブルや有料チャンネルで放送される機会をうかがっていましたが、運よく近所の映画館でやっていたので足を運びました。平日の昼間に一回だけの上映で、完全貸し切りの状態で観劇。もしこれが『死霊館』的な映画だったら、メンタルがもったかどうか、一人で映画を見るという貴重な体験になりました。
さて、内容はどうかと言えば、正直言って、タイトルのまんま。それ以上でも、以下でもない。ある意味、今のアニメ業界がどんな状況なのかを知ることが出来てよかったと思っています。それは、作画と、メディアミックスなどのポストプロダクション。そして、映画に作家性が問われるとして、それが誰のものになるのかという問題についてです。
近年、非常に多く見かける制作委員会方式。これについては特に何の感想も持たないのですが、ジブリアニメなどでは宮崎駿、高畑勲など、作品と同列かそれ以上のブランドとして作家の名前が先に出て、その作品性に大きく影響しているように扱われます。近年では、細田守、新海誠、片淵須直などが台頭してきて、彼らの作品は、良くも悪くも監督の名前でお客が入る状態になっていると思います。当然批判も監督に帰結するもので、例えば声優の演技力なども含み、ブランドの浮沈にかかわる始末です。
今作で、その仲間入りをしそうだった高坂希太郎について、残念ながら、彼は作家ではなく、コーディネーターだったようです。少なくとも私にはそう感じられました。とは言え、この映画自体は非常によくできていて、細かいところまでこだわって描かれています。なのでツッコミどころのない、ていねいな作りで、破たんのない出来栄えの一本となっており、キャラクターの造形、特にその可愛らしさに関しては素晴らしいものがあります。
しかし、映画館に足を運び、非日常の世界に思いを馳せ、2時間弱の映像と音のイリュージョンに身をゆだねて劇場を後にするには、この映画非常に食い足りない印象しかありません。劇中に出てくる、健康状態に問題がある宿泊客が、「これじゃ、病院で食べる食事と一緒だよ。せめて湯治に来て食うメシぐらい、もっと腹に響くようなもんが食いてえなあ」とつぶやくシーンがありますが、あのまんま。私は映画そのものに、そう感じました。
具体的には、対象年齢の低さもあって、非常に展開が早く、女将に就任するくだりなどは幼い子供が「ぼく、おかあさんと結婚する」と言ったレベルの口約束にしか取れません。まわりの大人はそれを鵜呑みにして、踊らされすぎでしょう。唯一、ライバル旅館の跡取り娘だけは、地に足が着いた考えの持ち主に見えますが、逆に意地悪な印象を与えるように描いてあり、残念です。
次に、近年よく取り上げられる、声優の起用についての感想です。麻上洋子さんが改名されていたことは初めて知ったので、パンフレットを読み非常に感銘を受けましたが、基本的に私は職業声優さんをあまり好みません。特に、アイドル的活動を幅広く展開している人は、軽く嫌悪してしまうほどですが、その点素人(プロの俳優をつかまえてその表現もどうかと思いますが)を起用した劇場アニメーションによく批判が集まりますが、私は好意的に受け止めています。一部の例外は除きます。この映画では、見終わった後に知りましたが、バナナマン設楽統さんなど、畑違いの起用もいくらかあったようです。が、私にはアニメアニメしすぎた演出のように思えました。ひと言で言って、広く芸能を仕事にしている才能たちがこれだけ跋扈する世の中に、「閉塞的である」と思うからです。
最後に、いまどき、コナン君でもピカチュウでもなく、若おかみという発想は非常にユニークで、もう少しだけ、ほんの少しだけ大人向けに作ってくれていたら、大満足の出来だったと思い残念な気持ちで劇場を去ります。高坂監督の次回作に期待ですね。