「別れで始まり別れで終わる作品」若おかみは小学生! tanakaichirouさんの映画レビュー(感想・評価)
別れで始まり別れで終わる作品
公開日の初回で観てきました。人入りは平日の午前中ということで1/3程度の席の埋まり具合でした。
若おかみは小学生はTVアニメの方で観ておりましたが基本的なストーリーは原作、TVアニメの劇場尺用への再編集と設定、セリフの変更といった内容でした。その変更を加えた脚本が素晴らしく原作や、TVアニメでのおっこは負けん気が強く、前向きな明るいキャラクターとしてコメディタッチに描かれていますが、劇場のおっこではより血の通ったキャラクターとして描写されており、幼い子が両親を失うということがどれほど人生にとって大きな出来事でその両親の死とどのように向き合ってゆくのかというおっこの喪の仕事にフォーカスされた内容となっていました。
特におっこの心理状態が折々挟まれる両親との思い出の想起や夢での再会を通して、新しく始まった忙しい生活に手一杯で表面的に明るく前向きに見えても内面では両親の死を受けいれることが出来ず苦悩しているという二律背反の状態を巧みに表現されています。
それからうり坊、神田くん、水領さん達との関係を通してすこしづつおっこが変化してゆく様が、細かな描写で作中終盤の両親、うり坊たちとの「別れ」のシーンまで一貫して描かれていて、おっこのこれまでの変化とこれからの成長を感じさせる終わり方でした。
脚本以外のアニメーションもスタジオ・ジブリで長く原画、作画監督を務められていた高坂希太郎さんが監督をされていて一癖あるクオリティの高い表現をされており、なおかつ背景美術も思い出のマーニーの美術を描いていたでぼギャラリーが参加されていてかなりの意欲作だと感じます。
今作は児童書が原作となったアニメーションということで大人の方はそれだけで敬遠されてしまうかもしれませんが、大人が観ても何か子どもたちとは少し違ったメッセージを受け取り持ち帰ることが出来る作品だと思います。初回の人入りは正直まばらでしたが多くの人に観られることを心から祈っております。素晴らしい作品でした。