劇場公開日 2019年6月14日

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「ウズベキスタンはいい人ばかり」旅のおわり世界のはじまり 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ウズベキスタンはいい人ばかり

2019年6月28日
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鑑賞方法:映画館

 黒沢清監督の作品はこれまでにふたつ観た。ひとつは「クリーピー 偽りの隣人」で、もうひとつは「散歩する侵略者」である。どちらも普通に見える人が実は殺人鬼だったり宇宙人だったりするという話で、人は誰も仮面を被っていて仮面の下にはまったく違う素顔が隠れている、その極端な例を描いていたと思う。なかなか面白かった。
 本作品はそれらとは逆に主人公の仮面の内側から世界を見ているようで、見知らぬ土地での不安や恐怖感を主人公と共有する。言葉がまったく通じない状況では誰でも疑心暗鬼になって他人の悪意を疑ってしまう。街なかは常に小走りだったり、何かを言われると必ずノー!と言ってしまったりするのは殆ど条件反射である。
 それでも仕事となると話は別だ。バラエティ番組のリポーターとしての役割をよく自覚している主人公は、カメラが回った瞬間に気持ちを切り換えて肯定的な言葉を連発する。仕事とは人格と時間をスポイルされることである。不味くても美味しい、気持ち悪くなる遊具を楽しいと、笑顔でリポートする。テレビに真実は要らないのだ。そしてそういうところにこの映画に漂う徒労感と無力感がある。不愉快に思う観客もいるだろう。
 しかしそれこそ本作品の狙いなのではなかろうか。意味のない虚しい現実を描き、そこに放り込まれた主人公の葛藤を表現することで、ラストシーンが救いになる。中央アジアの美しい山々は、旅の終わりと言うに相応しい。ここから主人公の新しい人生がはじまるのだ。

 主人公を演じた前田敦子は「さよなら歌舞伎町」での演技はそこそこだったが、本作品の演技はとてもよかったと思う。ときに弱くときに強い女心の気まぐれを上手に演じていた。
 脇役陣は達者な人ばかりで、それぞれなりに主人公を見守る。特に染谷将太がかなりの好演で、企画をゴリ押しするテレビマンもそれなりに心の闇を抱えていることがよくわかる。この人は「さよなら歌舞伎町」でも斜に構えた青年を好演していた。

 たくさんの消防士が死んでも彼氏だけが無事であればいいのかというツッコミはひとまず横に置いておくとして、愛の讃歌がエディット・ピアフの原詞に近いほうの訳詞で歌われていたのはこの映画に合っている。この歌が選ばれたのは原詞のbout du monde(世界の果て)からきているのだと思う。そしてウズベキスタンは、パリから行くとしたらまさに地の果てであり、日本から見ても遠い異国の地である。今後はウズベキスタンと聞くとこの作品のイメージが浮かぶことになるだろう。穏やかな通訳の男性、ちゃんとした料理を作ってくれた食堂のおばちゃん、それに紳士的な警察官。「ウズベキスタンはいい人ばかり」という主人公の台詞を信じてみたい気がする。

耶馬英彦
Ayumiさんのコメント
2019年11月23日

全体として暗い印象の映画でした。リポーターの主人公は憂鬱な顔をしていることが多く、周囲のスタッフには無愛想でした。

最も印象に残ったのは、主人公が一頭のヤギを開放しようと試みた部分でした。そこではウズベキスタン人の主婦がベニスの商人のように、たくみに日本人たちを騙しました。

私もウズベキスタン人の友人に騙され、その結果、大金を盗まれました。この映画を観たときにはそのことに気付かなかったのですが。

通訳を演じた俳優が魅力的だと思いました。

Ayumi