騙し絵の牙のレビュー・感想・評価
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原作を読まずに観た方がいいかも
大泉洋に当て書きした原作を映像化したとのことで、その当て書きぶりを確認したくて、先に原作を読んで臨んだ。
結果、まず物語の途中経過と結末が原作とあまりに違うので、そこに気を取られてしまった。原作というか、個人的には原案のレベルじゃないかと思うほどの変わりようだ。各キャラの顛末も大体違うし……原作での速水(大泉)の立ち回りを、映画では高野(松岡)が担っているように見えた。
その上、原作では速水の会話のちょっとした言い回しの節々に大泉洋っぽさが滲んでいたのだが、映画ではその辺は大半が削ぎ落とされ、当て書きの雰囲気がなくなっていて、余計に原作とは別物に見えた。
後で大泉・松岡へのインタビューを読むと、監督が「原作をいったんバラバラに解体して映画脚本用に再構築」したそうだ。しかも大泉は、演技中に自分の素が出ることがあると「大泉さんぽいからNG」となることも多かったらしい。
原作に思い入れはないが、当て書きの映像化ということから漠然と、ここまでの改変はしないだろうという先入観があった。
このようなつくりの作品だという情報に疎かった私も悪いのだが、せっかく当て書きの役に本人をキャスティングしてるのに何故?監督は原作のどこに惚れて映像化したんだろう?そんな素朴な疑問が拭えなかった。
そんなわけで、映画単体ではそこそこ楽しめる内容にも思えたが、原作や当て書き云々の情報に惑わされて自分の脳内の原作イメージを上塗りする作業に追われてしまい、不完全燃焼感が残った。
この作品の場合、原作は読まないで観た方がよかったかもしれない。
個人の好みの問題だが、原作のこの場面をどのような映像にしたのかな、という比較を楽しむ場面もある程度は欲しいクチなので、ここまでの解体&再構築は正直残念だ。
映画そのものの評価とは微妙にずれるかも知れないが、原作小説が世に出ている以上は読者への配慮があってほしかった。
出版社社員が頑張る映画なだけに。
出版業界という村社会の改革者
自分がどういう「村」の住人で、その「村」の外で何が起きているのかを認識できている人間は少ない。特に日本は内輪の人間関係で完結する村社会なので、その小さい村での派閥闘争や権力の奪い合いをしているうちに、外の世界の変化に気づかず沈没していくみたいな光景をよく見る。
本作は、出版業界という「村」の物語だ。斜陽化する出版業界、紙の雑誌はどんどん部数が落ち、赤字なのに文芸雑誌だけは「聖域」として誰も手を出してはいけない。そんな「村の掟」に外の作法を持ち込み、かき回して一気にレジームチェンジを仕掛ける男を、大泉洋が演じているのだが、彼の掴みどころのない飄々とした感じがすごくハマっている。この主人公は、村の論理もよく知っていてその間隙を突くというか、真っ向からぶつかるんじゃなく、人々の習性を利用して笛を吹いて踊らせるみたいな、そんな人物なのだ。真正面から戦うヒーローよりも、日本社会の場合、こういうタイプの方が変革をもたらすんだろうなとすごく実感させられた。
塩田原作のエッセンスを抽出して再構築、既読者をも驚喜させる映画流の“騙し絵”
どんでん返しの仕掛けがあるベストセラー小説を映画化する際、読者にはすでに割れているネタをどう扱うかが難題だ。筋を忠実に再現するのも一つの手だが、その場合は既読者を驚かせるという点で妥協することになる。ほかにも、膨大な要素を詰め込み過ぎてせわしないダイジェストになってしまったり、登場人物のイメージに合わないキャスティングで失望させたりといった、原作物にありがちな落とし穴を避けつつ娯楽映画として成立させるにはどうするか。
主人公に大泉洋を“あてがき”するというアイデアを編集者から持ち込まれ、塩田武士が斜陽化する出版業界を舞台に書いた同名小説(本の内容に似て、その成立にも仕掛け人がいた点が面白い)。吉田大八監督は楠野一郎との共同脚本で、雑誌編集長の速水(大泉)、部下の編集者・高野恵(松岡茉優)、大物作家の二階堂大作(國村隼)などごく一部のキャラクターを残したほかは映画独自のサブキャラを適所に配し、小説の編集という仕事に対する速水と高野の愛着、雑誌廃刊の危機に奮闘する編集長と部員たち、出版社内の派閥抗争に翻弄される速水といった原作のエッセンスを抽出して再構築。いくつもの仕掛けが2時間の中できれいに決まるオリジナルな娯楽劇を作り上げた。映画単体でももちろん楽しめるし、既読者も原作のエッセンスを再び味わいながら、まったく新しい騙しの仕掛けに驚き満足するはずだ。
大泉の飄々とした“陽”の持ち味を活かしつつ“陰”(=牙)の面も引き出す緻密な演出も冴えわたり、吉田監督の新たな代表作となった。どんでん返し系の原作をオリジナルな筋で映画化した稀有な成功例でもあり、今後似たようなことをやろうとする映像作家にとってはハードルが一気に上がったはずだ。
大泉洋を筆頭に役者全員が上手い。音楽の使い方も絶妙で、テンポ良く楽しめる吉田大八監督の新たな代表作。
本作は、あえて一言で言うと「出版業界を舞台に繰り広げられる様々な生き残りバトル」でしょうか。
出版業界と一言で言っても、出版社、書店、(出版社と書店をつなぐ)取次店、そして、著者など本当に多くの役割があります。
本作の大泉洋が演じる主人公は、多くの出版社を渡り歩いてきた編集者です。
そのため、持ち球の多さや発想も面白く、それが見どころの一つとなっています。
また、タイトルに「騙し絵」とあるように、「表の顔」と「裏の顔」など、何が本当で何が嘘か、も興味深い内容となっていました。
とは言え、本作の最大の魅力は、人間模様の面白さだと思います。
大泉洋を筆頭に、松岡茉優など文字通り全員の演技が光っていて、それぞれのシーンがどれも興味深く面白いものとなっているのです。
これは、シーンに合わせた音楽の使い方もかなり上手く、さすが吉田大八監督といったところでした。
最後に、出版業界に長くいる立場からの感想です。
松岡茉優演じる編集者の実家は小さな書店ですが、こういう地域に大切な小規模な書店が全国で無くなってきています。「ネットで買えばいいのでは?」となりますが、高齢化社会ではなかなか厳しい面も大きいのです。どうにかして今の流れを止めないと、という社会問題は意外と大きいのです。
その一方で、世の中は出版業界にはそんなに興味がないのも現実だと思います。例えば、大手出版社の名前は知っていても、その会社の社長まで知っている人は(業界人でないと)いないですよね。
その意味で、本作の「テレビニュースの場面」については、少し違和感を持ちました。なぜなら、出版社の社長の人事や、新人作家のデビューなどはテレビで取り上げられるようなものではないからです。
本作を見た際には、この点が気になりましたが、映画はエンターテインメントでもあります。この見せ方が一番分かりやすく観客に情報を伝えられるベストな手法なのかもしれません。
そう考えると、これはそういう設定だと割り切りながら見るのが正解だと思います。
もし出版業界の人が見て気になったら、こういう「変換」をしてみることをお勧めします。
吉田大八節が炸裂、素晴らしいエンタメ作
大泉洋ありきで小説化された原作を、大泉洋主演で映画化。
なのに、見事なまでに原作をバラバラに解体し、映画のために再構築している。
吉田大八監督、お見事の一言。
脚本を読んだときは、度肝を抜かれた。
だが、どんなに解体しようが、原作のエッセンスを殺すことなく、どこまでも「騙し絵の牙」に
なっている。大泉洋と松岡茉優が際立っているのは、もはや当然。池田エライザ、宮沢氷魚、
木村佳乃も抜群に良かったし、國村隼にいたっては爆笑必至である。
何かわかりにくい
スタイリッシュな騙し合いなのかもしれないが、何でそうなるのかがいまいち腑に落ちないケースが多い。大御所先生を漫画原作として活かすのは面白いが、他はガチャガチャしてるだけでよく分からん。リリーフランキーとの空港でのやり取りや偽物騒ぎも意味不明。騙して面白いんですか!?の怒りも回収することなく放置。和田聰宏や斎藤工もあまり活かされない。アメリカ土産の契約締結も唐突すぎてインパクトはイマイチな上に主人公はそのレールに乗っからない。
2年ほど前に確かに観たことがあり、しかも結構おもしろかったという記...
出演者の顔ぶれも楽しめる
子供のような大人
予備知識ゼロで観賞させていただきました。
一時代を築いた社長の急死による権力闘争に揺れる出版社で辣腕を振るう雑誌編集長・速水(演:大泉洋さん)が印象的でした。
人懐っこい笑みを浮かべながら相手の懐に飛び込み、言葉巧みに誘導しては自身の利益に繋げる…保守的な出版業界を水を得た魚のように泳ぐ速水の姿に爽快感を覚える一方、部下(演:松岡茉優さん)の功績を盗む姿には違和感を覚えました。
物語の進展と共にその違和感は大きくなっていき、速水が勧善懲悪の体現者などではなく自身の利益のためならば『売る』ことに躊躇がないサイコパス的な人物として描かれる点がユニークだったと思います。
終盤、ビルの屋上で速水がコーヒーの入ったカップを床に叩きつける姿を目にして、まるで漫画『機動警察パトレイバー』の悪役『内海』のようだなと感じました。ゲームの駒のように周囲を利用して享楽に耽るものの、いざ自分が部下に出し抜かれるとゲームに負けてコントローラーを叩きつける子供ような癇癪を起す。
子供のような大人、速水…とても魅力的なキャラクターでした。
内容が全く頭に入って来なかった!!
内容が全く頭に入って来ませんでした。私は吉田大八監督の作風が苦手かも知れません。序盤で、所謂「青木まりこ現象」が出てきたのは良かったです。
変化する時代
脚本の練り込み方が素晴らしいと思った。
2021年現在の巨大出版社「薫風社」は、差し詰め「白い巨塔」という感じだろうか。
創業者という絶対君主の死亡によって起きる権力闘争
彼らの思惑とやってきた新しい編集長ハヤミ
この何を考えているのかまったくわからないおとぼけ編集長によって、薫風社と雑誌トリニティが大きく変化する。
さて、
大御所作家に対するエンピツ つまり編集という第三者による添削の是非
絵画や彫刻など一目でわかるものとは違い、分厚い小説の内容の是非などは誰かさんという権威によって左右されるのは容易に想像がつく。
また、
音楽のように、その奏で方の違いによって心への響き方に違いが出るのは誰もが経験しているが、小説となるとその感じ方はまだまだ人によって大きく好き嫌いが分れてしまうようだ。
編集者のエンピツもまた正しいとは言い切れないだろう。
特に、芥川賞や直木賞などを取った作品が面白いというわけではない。
そこには何らかの新しさなどがあるのだろうが、読み手によってそれはキュビズムのように感じるかもしれない。
この文芸作品に対する文学という言葉が、この世界を権威によってがんじがらめにしているように思う。
音楽のように文楽でいいのではないだろうか?
さて、、
このタイトル 騙し絵の牙
これがこの作品を単に象徴としている点もよかった。
しかし、
大どんでん返しパート1の、ヤシロの小説はカムクラが書いたものだったという点の複雑さとそれを知ったハヤミによる一芝居
ヤシロに対し小説以外の撮影などで嫌気を起こさせ、小説薫風に移動させる道筋を整えていたあたりのハヤミの策略 狡猾さ
まさにタイトル
そのハヤミも最後にタカノに「とんびに油揚げをさらわれる」ことになる。
敏腕編集長も100%ではないし、悔しがることもある。
タカノの視点
小説薫風の在り方への疑問
大御所作家への忖度への疑問
左遷と雑誌部への引き抜き
そこで考えた小説の在り方と雑誌の組み合わせ
この彼女の視点という主軸とその背後で動くヤハミ そして会社の意向
正体を現した社長 そこに仕掛ける大どんでん返しパート1
タカノの視点という主軸がいつの間にかハヤミの思惑に変化する。
ハヤミが最後まで読めなかったタカノの想い。
それが大どんでん返しパート2
そこにある「読者が求める面白いもの」という至極当然の追及
ただ、
フジテレビ問題があるように、彼らの考えた「面白くなければテレビじゃない」というコピーが生んだ「常軌を逸したえげつなさ」
作品は性善説で描かれてはいるものの、「次」を求められる時にその「常軌を逸すること」になってしまうのかなと思ってしまった。
すべてのスピードが極端にアップする時代
変化の波も極端になってきた。
つまり常識や認識や価値観も一緒に変化する。
多くの人がその中で四苦八苦しているのかなあと感じてしまった。
そう来たか!
面白かった。
大泉洋が騙して騙して勝ち続けるのかと思っていたら、最後にやられて全力で悔しがるオチだった。
リリーさんが出てきた辺りでなんかあるなあと思ったいたら、そういうことかあ!って感じで、やられました。
会話を楽しむエンターテイメント
今作は、特に耳で楽しめる作品だと思いました。
主人公は出版業界で働く高野(松岡茉優)で、実家が本屋というのも面白いです。
速水(大泉洋)の言動が見どころです。
決定権を持っている江波(木村佳乃)や東松(佐藤浩市)も魅力的でした。
評論家の久谷ありさ(小林聡美)の存在も良かったです。
登場する作家たちは、ワイン好きな二階堂大作(國村隼)、もう20年以上作家活動をしていない神座詠一(リリー・フランキー)、ぶっ飛んだ文章を書く城島咲(池田エライザ)、容姿端麗な矢代聖(宮沢氷魚)と、それぞれ特徴があり、キャスティングもとても良いです。
何よりもテンポが良くて退屈しませんでした。
4人組のロックバンド「LITE」が担当したBGMも好みでした。
エレキギターとドラムとベースの軽快なサウンドがシーンを盛り上げていました。
邦画苦手でも見れた
一言「濃いわ〜、濃すぎる!」
出版という斜陽業界のゲームチェンジ物語
Amazonの登場、コンテンツ配信の観点でもKindleの登場という中で、出版業界は年々厳しさを増している。
誰でも知っているその状況なのに、映画で出てくる薫風社の経営陣は社内の既得権益を守るための戦いをしている。
映画なのに、ほんとにこんな会社ありそう、、、と思わせる設定。
大泉洋演じる速水編集長は、飄々としていて何を考えているかわからない、でも面白いことを仕掛けていく達人。会社の中でも廃刊になりそうな雑誌なのに色々仕掛けていき、最後もどんでん返し。
媒体はなんであれ、面白いものを人に届けられればそれでよい。そんなキャラクターがすごく良かった。
一方で高野は誠実で本気でいいものを今の時代に合わせて作っていきたいと思う女性。真面目さと不器用さが目立つ彼女が、最後は速水をギャフンと言わせる仕掛けをしていく成長をみせたものまたよかった。
思ったより良かった
斜陽産業である出版業界は新しい風を入れないと衰退あるのみ。映画もそうですが、SNSやらなんやらで、メディアがあり過ぎて、仕事もあってもう観る時間も読む時間もないんです!今の世の中、コンテンツが溢れすぎてます。
だから、老舗出版社だろうが大手映画会社だろうが胡座をかいていたら倒産するかもしれないですね。速水氏ごもっともです。
ただ、ラストの展開だったら人を呼び込めそう。以前住んでいた家の近くに、フェミニズム本がたくさん置いてある書店を30代の男性が経営していて、なんだか好きな場所でした。そんな特別な場所を体験できる感じで、関野さんと江波さんが書店をやるなんてサイコーです。
星が一つ欠けた理由は、運の要素が多く、同業者として妬んでしまったところです。
予備知識ゼロで鑑賞しました。伝統か革新かではなく、おもしろいか否かという点に共感しました。また、物事の行方は、人を巻き込む情熱の大きさと、その質が説得なのか納得なのかで決まるのだなあ、と。改めて勉強になりました。
久々に爽快
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