「誰にも止められない、俺たちを」止められるか、俺たちを 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
誰にも止められない、俺たちを
昨年、3本の監督作を手掛けた白石和彌。
やはり最高作は『孤狼の血』だが、本作も非常に良かった!
描くのは、師・若松孝二。
若松孝二と言えば、日本映画界屈指の鬼才。
様々なバイトを転々とし、ヤクザの下っ端や刑務所にも入った事があるという異色の経歴の持ち主。
日本映画は全てクソ、警察など権力を心底嫌い、警察を殺したいから映画の世界に入ったとも。(デビュー作は警官殺しの映画)
性や暴力を通じて、常に社会や権力に対して刺激的・挑発的な作品を発表、当時の若者たちから熱狂的な支持を得る。
連合赤軍メンバーと親交もあり、2008年の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』はキャリア最高傑作とも言える衝撃的な力作。
2012年に死去するまで、映画を武器に闘い続けた。
1965年に立ち上げた若松プロダクション。そこに集った若き映画人たち。
1969年、同プロに助監督として入った一人の女性・吉積めぐみの視点から描く。
自分は何者か、自分は何をしたいのか、日々悶々と模索していためぐみ。
知り合いを通じて若松プロに入り、若松孝二の助監督に就く。時には女性ながら、ピンク映画の助監督も。
とにかく気性の激しい若松孝二。激昂すると、「俺の視界から消えろ!」。
そんな若松にキツく振り回されながらも、元々映画好きという事もあって、活気に溢れていく。若松に影響受け、性格も若松化していく。
集った仲間たちも同じ。映画を通じて社会と抗い続け、訴え、自分自身を模索し続けていた。
ヒロインの成長とアイデンティティー、若者たちの映画と青春のグラフィティ、興味深い若松孝二と若松プロの知られざるエピソードが巧みに展開し、飽きさせない。
門脇麦がさすがの若手指折りの演技巧者!
自然体でありながら、時に大胆に、時に複雑な内面を繊細に。
彼女の代表作の一つになったとも言えよう。
他キャストには、若松孝二ゆかりの面々。
若松孝二を演じるのは、晩年の作品の常連でもあった井浦新。
若松孝二本人がどういう人物でどういう性格だったかよく知らないが、喋り方やクセなど、かなり近付けたのだろう。
若松孝二と共に映画を作った実在の人物、親交のあった著名な人物も登場。
再現される初期の作品やピンク映画の数々は、熱心な若松ファンなら堪らないだろう。
これらの作品を是非見てみたいが、ソフト化されてないのがほとんどで、見たくとも見れな~い!
主人公のめぐみも若松プロの実在の人物。
若松プロで発見された彼女が遺した助監督の記録が本作製作のきっかけだとか。
尺は30分程度のピンク映画ながら、遂にめぐみにも監督の話が。
何を作りたいか自問自答しながらも、若松孝二の下で学び培った経験を注ぎ、撮り上げる。
が、出来映えは…。
改めて知らされる、鬼才と凡人の才能の違い。
この頃若松孝二はパレスチナに赴き刺激を受け、より政治に傾倒していく。
若松プロも、映画か政治か、で分かれる。
めぐみも依然映画は好きで、若松孝二に刃を突き付けるような映画を作りたいという意欲はありながら、映画以外の道の事を…。
再び、模索し始める。
そんな時、関係を持ったカメラマンの青年の子を身籠り…。
何が決定的な原因だったのかは分からない。
自分は何者か、どんな映画を作りたいのか、答えを見出だせず、迷走したままだったのか。
無軌道な若者のこれが終着点だったのか。
映画を変える映画を作りたかったのに、結局自分もそんじょそこらの女たちと変わらぬ事に意気消沈したのか。
分からないままだろう。
しかしめぐみは、自ら命を絶ったのだ…。
映画作りに迸った熱気。
突然消えた灯火。
それでも彼らは映画を作り続けていく。
映画を通じて闘い続けていく。
止められるか、俺たちを。
誰にも止められない、俺たちを。
まるでその精神を受け継ぐかのように、映画を撮り続けている白石和彌。
去年3本、今年も3本。
その精力さには感嘆するが、傑作もあれば駄作も…。
一時期の園子温みたいにならなければいいが…。
素晴らしいレビューでした!
読み応え、十分!
> 門脇麦がさすがの若手指折りの演技巧者!
「太陽」で彼女を見て以来、自分の中でも、二階堂さん、小松さん、杉崎さん、広瀬さんらと並ぶ「安心して観ていられる若手女優」です。