劇場公開日 2018年10月13日

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止められるか、俺たちを : インタビュー

2018年10月15日更新
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若松孝二監督へ捧ぐ 白石和彌監督×門脇麦×井浦新、三者三様の答え

若松孝二監督の遺志を継ぐ者と、新たな息吹をもたらす者。白石和彌監督は衝動に駆られて師匠と向き合い、井浦新は恩師を演じることで存在を再確認。門脇麦は全霊を込めて、生前に会うことがかなわなかった巨匠の背中を追いかけた。三者三様の思いは映画作りに純粋すぎるほどの情熱を傾けた時代を活写し、普遍的な青春群像劇として結実した。それが「止められるか、俺たちを」だ。(取材・文/鈴木元、写真/根田拓也)

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主人公の吉積めぐみさんは1969年春に若松プロダクションの門を叩き助監督となったが、71年9月に急死。若松監督の著書「俺は手を汚す」にも記述があり、今も事務所には写真が飾られている。当然、白石監督も存在は知っていたが、亡くなった際にスタッフが作っためぐみさんの写真集を見た瞬間がすべての始まりだった。

「めぐみさんの簡単な略歴が載っていて、彼女の具体を知った時にいろいろと想像できて居ても立ってもいられなくなっちゃったんです。めぐみさんを主人公にすれば若松プロを描ける。それは早い段階で気づいたけれど、具現化するにはいろいろと言う人もいるだろうし問題はいっぱいあった。でも沸き上がった衝動はどうしようもないから、いろいろな人に話をしてみたら皆が面白がっちゃった。それが運の尽きです(苦笑)」

あまたある問題の中で、若松監督を誰が演じるかを決めなければ先に進めない。井浦を念頭に置いていた白石監督は、若松プロから所属事務所に連絡を入れる正攻法でアプローチ。だが、オファーを受けた井浦はその後約1カ月“音信不通”になったという。

「まず、若松プロから事務所を通して仕事が来たのが初めてだったので、最初はふざけているのかと思った。再始動します、監督は白石さんですというから、それは筋が通っていて最高だねという話をして、内容を聞いたら60年代の若松プロだと。だんだん不安になってきて、一番聞きたくないワードが出てきた。僕はそこで本当に止まっちゃいました」

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しかし、依頼のあった時点で覚悟は決めていたという。1カ月は決意を固める雌伏の期間であるとともに、若松プロへの意趣返しの思惑もあった。

「若松監督はただでさえ代役のきかない人。具合が悪くもなりましたけれど、演じられるのは自分しかいない、自分しかやっちゃダメだ、他の人が演じて迷惑もかけられないし、この“罰ゲーム”は全部自分が受けてやろうと思って。あとはどう若松プロと白石監督に言おうかと思った時に、この苦しみを少しでも味わってもらいたい、不安がらせようと思って音信不通になりました」

めぐみ役は、「サニー/32」などで絶大な信頼を寄せる門脇を迷わず指名。当然、生前の若松監督と面識はなく、映画に対するイメージは「エネルギーの出方がおかしい」という独特なもの。若松プロに初参加の不安を抱えながら撮影に臨んだが、めぐみさんとの共通項を見いだすことで活路を開いた。

「冷静に考えた時に、めぐみさんも若松プロを深く知らずに映画に携わりたくてポンッと入った女の子なので境遇は似ている。私が皆さんの絶対に届かないものに追いつこうという気持ちと、めぐみさんが若松監督の絶対に届かない背中を追い続けていたこともリンクする。その気持ちを通せば、成立させられるかもしれないと思いました。あとは、めぐみさんの写真を毎日見て、どうか私に力をくださいと祈っていました」

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2008年「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」以降、晩年の若松監督作品の常連だった井浦も、白石監督の下であらためて若松プロの流儀を味わうことになる。

「若松監督役としてのファーストシーンが、ト書きだけのセリフのないシーンだったんです。これならスローで徐々に慣らしながらできると思っていたんですけれど、白石監督が『ちょっとこっち向け、そこ、入っているからどけっ』って言ってもらえますと。うわっ、いきなりセリフきたってなりました。若松監督は本当に心の準備をさせないんですよ。若松プロの人たちはさすがだなと(苦笑)。いきなりギアをトップに入れられた感じで、引くに引けない状況。そこからのスタートで、それ以上のものを積み重ねていくことになりました」

それでも当時33歳の若松監督を体現したことで、あらためて気づくことも多かったようだ。

「僕が出会った頃と当時も映画作りの根本は変わっていなくて、ブレていない。カメラの前に出て自分が映っちゃうくらいのことを普通にしていたので、あれをやれるんだと思うとだんだん喜びになっていきました。役を通して現場が楽しくて大好きでしようがないという気持ちになれましたし、そういう現場は無条件でひとつになっていきますよね」

白石監督もめぐみに自身を重ね合わせ、若松孝二を演出する重圧と闘いながら完成させ、今年七回忌を迎えた師匠への思いを巡らせる。

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「現場で困った時に、若松さんだったらどう切り抜けるかということなどはいつも考えています。映画は本来、圧倒的な自由を持って作るべきだということですよね。劇中で若松さんが『客に刃(やいば)を向けるような映画を作りたい』というセリフがありますが、僕は果たしてその刃を持っているのだろうかということを、この映画を通して確認したかった。それはまだまだやれるなというものにつながっていくし、こういう若松さん的な映画作りはこの先何年かブランクはあってもできるなという自信にはなりました」

一方の井浦は現在、若松監督の存在をどのように受け止めているのだろうか。

「乗り越えられたということではないのですが、6年たって自分の中にいてくれる若松監督をしっかり確かめることができました。2週間くらいの撮影でしたけれど、本当にいい夢をみたなあって思っていて、自分の中に監督を実感できたのはこれからの僕にとってすごく大きな時間、役だったと感じています」

対する門脇は若松プロの現場に身を投じ、70年頃の若松組の撮影を疑似体験したからこその観点で、自身の成果を明かす。

「熱量がまず先行して走っていける感じは本当に憧れます。舞台は映画製作で若松さんの話でもあるんですけれど、今の人が見てもいろいろなことを感じ取れる青春映画だと思うんです。私はこういう青春映画の方が格好いいと思う。しゃかりきに生きるのって格好いいなと思ってもらえたら、私もすごく格好いい仕事をしちゃったなって感じがします」

天国の若松監督も「バカたれっ」と毒づきながらも、ほおを緩めているに違いない。

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