「毎朝会う人とは奇妙な絆を感じることもある」パラレルワールド・ラブストーリー つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
毎朝会う人とは奇妙な絆を感じることもある
「パラレルワールド・ラブストーリー」と銘打つからには、平行世界の入り口くらいは覗かせて貰いたいものである。
山手線と京浜東北線・田端~品川間の並走は、抜きそうで抜かないデッドヒートで(当たり前だけど)乗り込むと不思議な高揚感に包まれる。
品川駅までのランデブーが終わり、少しずつ離れていく姿に、平行世界を感じてしまうロマンは、何となくわかる。
「パラレルワールド・ラブストーリー」、面白かったな~、短かったけど。終わり。
えっ、ダメかな?
だって「パラレル」で「ラブ」なのって冒頭だけでは?
だからここは大胆に記憶を改変するべく、ちょっと脳細胞に強い光を浴びてきます!ビビビ!
冗談はさておき、この映画、出だし20分でネタが割れちゃって、「えっ、この映画108分もあるの?!」という衝撃なのかな~、と。そんな風に感じた訳です。
てっきり「パラレルワールド」なんだと観ている側が錯覚することで、「パラレルワールドじゃなかった!」という事実に衝撃を受ける。そういうダイナミックさがあったはずなのに、無い。
登場人物の紹介が終わったか否か、ぐらいで篠崎事件の顛末が語られちゃうなんて!ネタバレじゃんか!
因みに私は原作読了、旦那は未読の状態で観たのだが、旦那は一度もパラレルワールドに足を突っ込む事なく。
かなり序盤で「これって記憶が錯綜してるだけだよね?」との問いかけに、「お、おう…」としか答えようの無かった私の気持ち、わかる?!
ホントは違うの!平行世界の崇史と崇史の記憶が、混ざりあっちゃってるのかな~、みたいな推測があって!
平行世界はいつ交わるの?みたいなドキドキがあって!
それで実は「パラレルワールド」じゃなくて、記憶改編だったから、「なんですと?!」ってなるの!
最初からその話しちゃダメ!
記憶の改変が行われていたという事実に衝撃を受けるというストーリー的な醍醐味。
願望と現実が乖離したとき、向き合うことに勇気が持てなかった後悔。
愛に付随する「容貌」「才能」という不純物。「嫉妬」「同情」と「愛情」の混同。
掘り下げ描き出す事が出来るテーマはいくつもあったはずなのに、何一つとして印象に残らないんだからマズイよね。
本物の記憶と、改変された記憶の齟齬を解きほぐすうちに、親友と一目惚れの女性の間で悩む過去の自分の物語を再発見し、主人公・崇史は積み上げてきた二つの記憶をどう受け入れるのか?!
と思ったらヤツは「受け入れない」というまさかの選択なんだよね~。偽の記憶であんだけ振り回されたのに、まだ懲りないんかい。
それともリスタートされた状態なら、智彦に先を超される事もなく、麻由子と出逢える・付き合える・本当に愛されると思っちゃった?
ワンピースにハイヒール姿の女子と1on1しちゃう時点でモテ要素ゼロなんですけど。そういう部分にダメ出しするのも女優の仕事だぞ、吉岡里帆!とも思ったけど、まぁそれはいいや。
親友・智彦を演じた染谷将太は良かったと思う。初めての彼女に舞い上がり気味のテンションとか、ゆるんだ表情とか見てると「恋愛って良いな」と思えるもの。
どう考えても智彦の方が崇史よりイイ男だったよね。自分といるだけでこんなに笑顔になってくれるなんて、女冥利に尽きるもの。
麻由子が崇史を選ぶ意味がわからん。
あと、初見だったけど美村里江。目立たないかもしれないけど、崇史の同僚・景子の演技は自然体で緩急もあり、良い女優さんだなと。
ちょっと吉田羊に雰囲気が似てるな。好き。
ノレない脚本、しょーもない演技(ああ、勿論染谷将太と清水尋也は除いて)、特に工夫も見られない演出の三重苦。ヘレン・ケラーもビックリだよね!いや~、頑張った。私。
記憶を改編して無かった事にする「逃げ」では何も解決しないし、何も学べないので、心のメモリーカードにしっかりと「つまらなかった」と書き込んでおきます!(Enterキー)