「原作ファンも唸るしかありません」アイネクライネナハトムジーク 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
原作ファンも唸るしかありません
『愛がなんだ』に続く今泉監督作品。
どちらも原作が良くて鑑賞しましたが、もう天才としか思えません。
原作の良さというのは、文章表現による表情の細やかさとか、思いの機微、もどかしさ(瞬間だけでなく、一定の時間の経過などでも表現される)などが優れているわけです。言い換えれば、誰もが経験する複雑な感情をなんでこんなにうまく言葉にできるの?というのが、プロの作家の凄さだと思います。
今泉監督の手にかかると、必要最小限の言葉、独特の間、役者さんの演技を引き出す術、などでそれらが鮮やかに再現されます。セリフなどは原作へのリスペクトも含めて、かなり忠実なのですが、それでいて、ただの原作の模倣・再現というレベルをはるかに凌駕して原作とは異なる感動すら与えられます。個別の映画として原作とは似て非なる、独自の魅力的作品に仕上げてしまいます。
ですから、原作ファンからみても(少なくとも私は)、原作を壊した、みたいなネガティブな印象を受けることなく、むしろ違ったアプローチによる改題が純粋に楽しめてしまうのです。
(例えば、若い女性に対するクレーマー撃退法を発揮する場面が原作とは少し違うのですが、思わず、そうきたか‼︎と心の中で叫んでしまうほどうまく改変されていました。)
今まで伊坂幸太郎さんの作品を読んだことがなくて、この映画が好きになれる方なら、この作品の原作と合わせて、『フィッシュストーリー』『オー!ファーザー』などは是非お読みいただきたいな、と切に思います。
はい。
織田夫妻、娘……これもまた良いんですよ。
たぶん、観てから読んでも凄いんです❗️
ギター弾きのサイトウさんもいいし、あー、思い出すだけで笑って泣けます。
貴重なコメントをありがとうございます。
『原作をどう料理したか』という視点は楽しいですね。
『蜂蜜と遠雷』は、ロケ現場を覗いていて、あれがどのような映像に仕上がっているのか、私も楽しみにしています。
ギター弾き語りのあの人は、原作では〝斎藤さん〟として登場し、登場人物の
その時の心情に沿った唄を披露する、映画以上にファンタジックな描かれ方をしてたと思います。
原作と映画、どちらが先でも何回でも楽しめます。
【原作ネタバレあり】
原作の良さを活かしつつ、改変した例をひとつ。
いじめられていた少年が、10年後のヘビー級タイトルマッチの時、映画では客席にいて手話(大丈夫)を送り、太めの枝を折ります。
原作では、少年は昔チャンピオンから励まされたことがきっかけで自分の道を見つけ、モデルになり(つまり、ハンディが障害にならない職業)、試合ではラウンドボーイとして出てくる。そして弱気になっているチャンピオンの前で、枝ではなく、ラウンドの書いてあるボードをへし折ってやや怒りのこもった表情で叱咤激励するのです。ラウンドガールではなくラウンドボーイになった経緯までは映画では描く時間がなかったので工夫したのだと思います。