「『君の天使みたいなもんだよ』」審判 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
『君の天使みたいなもんだよ』
『変身』で有名なカフカの小説を実写化した作品である。原作は未読であるが、作風は不条理と理不尽の状況下に於いての人間の機微をクールな視点で描く内容であることは想像出来る。
小説をベースに、制作陣の脚色がなされているかと思ったが、どうも充実らしいのは、wikiで調べると粗筋に変化がないことから分かる。なので、そもそも容疑不明での裁判という突拍子もないシチュエーションが、どれだけ作品に入り込めるのかが鍵なのであろう。自分は非常にそこが困難であった。その辺り、もう少し作品内容を壊しても、現代に沿うストーリー設定に再構築してもよかったのではないだろうか。これでは、単に小説を芝居にしてみましただけで、外連味もなにもない。余程文字を読んだ方が却って想像が膨らむかもしれない。法廷(小学校の体育館だが)で、裁判官の後ろで洗濯物を干す女等、これは小説にはキャスティングがないだろうが、それとて不条理コントをみせられているようで、ついていけない。まぁ、そういう作風だと言われれば、もうこれはそういうものだというもので飲み込むしかない。そのシュールをまるで苦い薬のように飲み干して、それで何が得られるかというと、かなりの倦怠感しか包まれないのだが・・・決してカフカの世界観は嫌いではないし、それこそ『変身』は秀逸なSFである。こういう単館系の作品なのだろうから、もっと冒険してもよいのではないだろうか。ドぎついシーンや、肉感的なエロティシズム、ラストの屠殺シーンは、もっとバイオレンス色が強いとその不条理感が映えると思うのだが・・・ どうせ、こういうテーマだから伏線など回収されないのはデフォルトだし、勿論カタルシスなんて甘っちょろいプレゼントはないのは分かっているし求めてもいない。
結局、主人公はその不条理に対するストレスを女の色香や優しさをもって解消していこうとする。そしてその解消法が正に男の息の根を止める、そんな訓示なのだろうと考える。ただ、あれだけの理不尽ならばそっちに癒しを求めるのは自然なことじゃないかなとも思うのだが、自分も主人公と同じで、ろくな死に方をしないだろうな・・・ ただ、何が正解でなにが間違いなのか、人生への教訓なのであろう今作品は、カフカの小説を読むだけでたどり着けると思う。わざわざ実写化しなくても。