「味よりも熱々のコーヒーが必要」コーヒーが冷めないうちに movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
味よりも熱々のコーヒーが必要
ずっと観たかった作品。
ひよっこで上京喫茶店店員役をした有村架純ちゃんと、コントが始まるでファミレス店員役をしている有村架純ちゃんの、間を埋めるような作品。
落ち着いた口調と丁寧な所作が似合う。
家族を大切にする、今ある時間を大切にする、逃さず気持ちを伝えて逃さず相手の気持ちを確認する大切さを教える物語。
たったコーヒー一杯が冷めるまでの短い時間でも、気持ち、生き方を大きく変える事ができる。
それを見せるために、伝えるために、ファンタジーのような物語になっているが、普段ファンタジーは苦手な私でものめり込んで鑑賞できた。
キャストも、松重豊に吉田羊に薬師丸ひろ子に石田ゆり子にという元々好きなメンバーに、伊藤健太郎。今は時の人となってしまったが、子供との接し方が自然。
数と新谷で20年近くかけて行った壮大な計画。
まずはXデーに向けて、娘の未来を育てる。
未来には時を動かせるコーヒーの淹れ方を教える。
そして、Xデー8時に未来がコーヒーを淹れて数を、数が6歳のクリスマスに飛ばして、数は母の要と会う。
そうしたら。
6歳の数が母に時を超えるコーヒーを淹れた8月31日。母、要は早く亡くなった父の元に行ったと数はずっと思っていたが、実際は宣告された余命より後に、娘の数がどうしているのかを確認しに、その年の12月のクリスマスに行っていた。そして、コーヒーが冷め、8月31日に戻るタイミングで数が怪我をして、親心から数を放って戻れず、コーヒーを飲み干せなかったため、8月31日には戻れず、クリスマスのまま幽霊になっていたとわかった。
娘の数はずっと、過去に行った母に置いていかれたと勘違いをしていたが違った。数がそれだけ確かめて戻ってきたところまでが、作中とエンドロールの時間を入れ替えるとわかる。
そしておそらく。今度は娘の未来を過去に行かせて、祖母となる要をXデーに飛ばし、自分もXデーに戻ってくる、20年近くかけて行う壮大な家族の計画。
大切な人が家族になってくれて、更に娘を授かる貴重性が、作品を通して際立つ。
もしも娘がコーヒーを淹れてくれなければ、数はずっと要に置いていかれたのだ、要にコーヒーを淹れたせいで要が幽霊になったのだと思って生き続けていくのだから。
過去の事実は変わらないけれど、未来の人が変えてくれたおかげで、過去での心持ちは変えていくことができる。
それでも、そうして産まれたはずの娘が、吉田羊演じる実家が旅館の女性のように、家族から離れてしまったりする。子供には子供の人生があるのだから押し付け厳禁なのだが、要を取り戻す未来を、新谷くんと和と未来で成し遂げられるよう願わずにはいられない。
数をずっと見守り、未来の代でも支えている、数の叔父が良い雰囲気を醸し出していた。マスターとして全てを見ている叔父が、都度、数や未来がタイムスリップして得た事実を、過去から生き直さずとも教えてくれているのだろうか?
一方、作品に現実目線を仕込むためだが、穏やかに流れる喫茶店の空気を乱し口調からして自分勝手な、波瑠が目立った。いつも後先考えずに自己中心的な役ばかり。なかなかそういうイメージを任せられる女優さんも珍しいのだとは思うが、同じ台詞でも最大限に自己中な言い方で話す女優さん。序盤でアメリカに行ってくれるお陰で、物語の肝部分を落ち着いた喫茶店の空気に浸りながら見ていられた。