「ウディ・アレン的テネシー・ウィリアムズ演劇」女と男の観覧車 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ウディ・アレン的テネシー・ウィリアムズ演劇
ウディ・アレンの今年の新作。大女優ケイト・ウィンスレットを主役に配したあたり、かなりの意欲作なのでは?という気がする。数年前にも大女優ケイト・ブランシェットを主役に配しかなり力を入れて作ったであろうことが垣間見える「ブルー ジャスミン」があり、そちらはウディ・アレン流にアレンジしたケイト・ブランシェットのための「欲望という名の電車」という感じがあった(ちなみにブランシェットは舞台で幾度となくブランチ役を演じている)。それでは今作はどうか?テネシー・ウィリアムズ的なヒロイン像や「観覧車」というタイトルから察するに、「ガラスの動物園」のような気もするし、個人的にはどこか「サンセット大通り」あたりも想起した。元女優である主人公ジニーが、脚本家志願の若き男に入れあげ、激しい嫉妬と妄想と狂気に溺れていく。そんな鬼気迫るヒロインを演じるのに、ウィンスレットほどの女優でなくては!と思う気持ちも良く分かる気がする。
ウィンスレットもその期待に応えるかの如く熱の入った演技を見せつけてはくれるのだが、どうしても暑苦しいというか力み過ぎというか。映画自体がやや舞台がかったところがあり、ジニーら家族が暮らす遊園地の隣のアパートを一室をメインステージにした舞台のような作り方で、台詞の応酬も舞台っぽい部分が強く、これを本当に舞台で見たならド迫力で見応え十分だったのだろうと思う一方で、映画で見ると少々その大芝居が煩く感じられてくるのも否めず(ジム・ベルーシも然り)。むしろ、物語においては台風の目のような立場でありながらも、どこか清涼感漂うジュノー・テンプルの存在と演技の方がよっぽど輝いて見えたほど。
ただただ美しいライティングと背景に佇む観覧車の美しさに見とれ、夢の世界のような遊園地の隣で生々しい痴情のもつれと、美しい光に照らされた人間臭い人々という対比に惹かれつつ、悪い意味でひたすら息苦しいばかりの物語にすっかり疲弊してしまった。ただ放火癖のある息子が締め括るラストシーンは余韻と皮肉があってやけに好きだった。