「自衛隊の専守防衛の困難さを描いた、戦争映画ならぬ”戦闘映画”の希少価値」空母いぶき Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
自衛隊の専守防衛の困難さを描いた、戦争映画ならぬ”戦闘映画”の希少価値
戦争の放棄を明記した平和憲法を持つ日本が、領土侵略をされた時の防衛出動を主軸にした”戦闘映画”。敵の犠牲者を抑えるために、最小限の武力行使を行う自衛隊員の戦 闘場面を描く日本映画としては希少な作品と思われる。空母を守る護衛艦や潜水艦の役割、ミサイルや魚雷の攻撃に対する防衛システムなど興味深く観ることが出来た。但し、専守防衛から逸脱できない攻撃内容の足枷による高確率なミサイル撃破が実際に可能であるのかの疑問は残る。ハイテクを駆使した装備を使いこなす自衛隊員の技術力が高いことを願うしかない。しかし、それにも限界があると思われる。目も当てられない悲劇を予想させる、絶対多数の敵戦闘機が襲来するクライマックスが、およそ現実的ではない常任理事国5か国の国連軍の援軍で決着してしまうからだ。現実的には、アメリカ軍の協力がないと領土奪還と人質解放は不可能であることを改めて認識させる。戦争に至らぬ戦闘で出来る範囲内で纏めた、これは戦争映画ではなく”戦闘映画”と云うべきなのだろう。今の日本が置かれている状況の実態を仮想世界で見せてくれた価値は充分あると思う。
戦闘場面の緊張感、軍服姿の男優の演技、空母・護衛艦・戦闘機・潜水艦の特殊撮影は特に不満がない。しかし、偶然空母いぶきに同乗した新聞記者ふたりと、クリスマス・セールに忙殺されるスーパーの店長の描写は酷い。軍事衝突のスクープ映像を世界に発信するための作為は仕方ないとして、空母内での言動にジャーナリストの気概を全く感じない。この映画で最も軽く扱われているのがジャーナリズムの存在である。スーパーマーケットの場面も、映画の緩急のためのカットバックとして定石であるが、クリスマスブーツの需要にリアリティがなく、シリアスを強調するユーモアも不発に終わる。そして、このどちらにも平和ボケした理想主義者の安直なメッセージが込められて、主軸の現実的な切り口の価値を削いでいる。それと、強硬姿勢を貫く副総理と優柔不断な総理に比較して、冷静沈着な官房長官が、影の総理のように描かれているのが解せない。現存の内閣を揶揄する意図なのか、それ以上に政治家の無能を改めて描く意味が、この”戦闘映画”に必要なのか。大人の視点なら判断できるだろう。また、外務省官僚の最後の台詞の(物事は、想定外の連続で動くものだが)の後を濁したのも、エリート官僚を馬鹿にしていないか。結論を言えば、この程度の日本国内の描写力なら、一切カットして、領土奪還と人質解放を遂行する自衛隊の活躍と犠牲を真正面から描いたなら、傑作になったと想像する。それこそが、厳とする映画の姿であろう。
それでも、この作品で国家防衛の未来像について、新たな想いを抱くことに意味がある。欠点を含めて今の日本の現実が、残念ながら、ありのままに反映されているからだ。