「枷」空母いぶき U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
枷
エゲツない状況だった。
あれじゃ人柱みたいなもんじゃないか。
向こうが攻撃するまで攻撃しない。
それはご立派な理念で、それがまかり通る世界であって欲しいとか思う。
「専守防衛」世界でも類をみないこの理念を頑なに貫く我国の自衛隊を誇りに思う。
作中での台詞がとても理解できた。
戦闘と戦争の違いとか。
外交上のやり取りとか。
総理という役職の重圧とか。
かなり短絡的な思考だとは思うけど、今まで考えた事も無いような視点をくれた。
思い返してみたら、ここまで自衛隊の現状に肉迫した作品はなかったんじゃないかと思う。
それを考えられただけでも、この作品を発表した意味はある。
4.0って評価はその意義に対してだ。
作品的には腑に落ちない展開や台詞もあり、微妙な感じは否めない。
原作未読なので頭を傾げてしまうのだが、最初から最後まで西島氏のニヤケ顔が鼻につく。なんで笑ってんのかイマイチ分からない。
彼はサイコパスって事でいいのだろうか?
好戦的にも思えるし、武力を行使し誇示できる機会を伺ってるようにも思う。
それで正解ならいいのだけれど、それにしても底が浅いように感じる。
総理もなんだか軽いと思えてしまう。
あんな程度の逡巡なのかな?あんな程度の恫喝なのかな?あんな…普通の一般人がするようなリアクションなんだろうか?
威厳がないのは狙いかもだけど、アレでは責任を取らせるだけの飾り物だ。
…むしろ、それが正解なのか?
作中には色々と浮き世離れした思考や価値観が氾濫していて戸惑うのだけれど、僕らの日常とは違う日常なので理解しにくい。
戦闘中の緊張感や空気感はすこぶる良かった。カッコいいと思う程に。もしや、このカッコいいと思えてしまう事が、この類いの映画が世に出なかった理由なのかと思う程に。
CGも良い仕事をしてくれてた。
あるシーンで、敵国の潜水艦がイブキの真下を通る。魚雷の発射口を開いたまま。
撃つかもしれないし、撃たないかもしれない。こんな状況が容易に起こるのかどうかは分からない。イブキが航行してる海域は日本の領海のはずである。
そこに攻撃態勢で潜行している潜水艦。でも何もしない。警告さえしてない。
向こうが攻撃してこない限り攻撃しない。
理不尽極まりない状況なのだ。
目の前にナイフを振りかざしてる相手がいて、対峙しながらに後ろで手を組み、睨みつけるしかない…いや、視線さえ合わせない。
そんな状況と酷似してる…背筋が凍る。
戦争を食い止める為の戦闘。
よく分からない文章なのだけど、この映画はそれを体現してたかのように思う。
公開時に一悶着あったけれど、見れて良かった。現代において竹島やその周辺で行われている事とどれくらい類似しているのかは分からないのだが、どこか遠い場所の話ではなくて、身近な、自分達が対峙している問題だと思えた。
そして、この綱渡りのような環境に日夜立ち向かっている自衛隊の方たちに敬意と感謝を。
ホントに。
心からそう思う。
原作既読者ですが、艦長のニヤケは俳優さんのオリジナルです。
ご興味が出たら是非ともマンガも読んでみて下さい!映画より惹かれるモノがあると思います。
そして、原作を読めばこの作品がなぜ原作既読者からボロカス言われてるかについても、きっと分かると思います。