「死生観と絆を描いた、素晴らしい作品。」洗骨 マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
死生観と絆を描いた、素晴らしい作品。
以前から気になった作品で公開前から興味があり、鑑賞しました。
で、感想はと言うと、観て良かった。
どの言葉が適切かどうかは分かりませんが、とても良い作品で、観ているうちに“これは凄い作品なのでは”と“これは観るべき作品なのでは”と思いました。
一言で言うと、この様な作品に出会えた事に感謝です。
洗骨と言う沖縄の一部の地方に残っている風習は知ってはいましたが、軽々しく表に出る物でもなく、また軽々しく興味本意で覗いてもいけない。だからこそ、文章などでは伝えた物があっても、映像では殆ど残っていないのは、家族以外には見せてはいけない、覗いてはいけない神聖な物だからだと思います。
衛生上と言った建前の理論を盾にいろんな意見が出るだろう中で、それでも未だに残る風習の習慣には興味が湧きつつも、家族の骨を洗うと言うショッキングな出来事にはいろいろと考えました。
自分だったら、正直嫌だろうなぁと思います。
洗骨の儀式が近づくにつれ、憂鬱になるだろうと思います。
でも、人の生と死を考える事が少ない昨今、改めて大事な大事な事を思い出させてくれた感じです。
また、家族との絆が都会では希薄に感じるのに遠い沖縄の地方では自然の風景と同じように添い遂げる家族との絆が優しく包み込んでいて、だからこそ、鑑賞する意義もあったと思います。
家族を繋ぐ母親が亡くなった事でバラバラになった家族が洗骨の儀式を通じて、再び家族との絆を取り戻す。
母親と改めてお別れをする事と新しい命の誕生を描いています。
文字で書くと簡単ですが、盛り込みのバランスがとても難しくて、チープになる事も多いのに、この作品は絶妙なバランスです。
また、随所に笑いの場面もあって、楽しく鑑賞出来ました。
特に娘の優子が妊娠して、帰ってきた時に“セックス”と言う単語の説明を甥っ子の元太にする時に「馬鹿野郎と同じ様な使ってはいけない言葉」と説明しましたが、優子の事を陰口を叩く近所のおばちゃんに対して“セックスー!”と馬鹿野郎と同じ意味合いで使ったのには爆笑。
直ぐに信子バアちゃんのツッコミが入りましたが、子供の“なんで?”のテンポも絶妙で、再度爆笑しました。
重いテーマなのに、随所に笑いが散りばめられていて、肩の力を抜いて観られる所にも、単純に芸人のゴリさんが監督したと言うだけでなく、映画監督の照屋年之としての意気込みがこの作品の奥深さとエンターテイメントとして作品の意識が垣間見えます。
鈴木Q太郎さんの空気の読まなさは過度な笑いに走っている感が否めないですが、あれぐらいの方がエンタメとしては成立していて、寡黙な父親や重い空気になりがちな現実との対比になるかなと個人的には思います。
キャストは何方も素晴らしいですが、特に信子バアちゃん役の大島蓉子さんが素晴らしい。
どっしりと構えていて、どっしりと真ん中で支えてくれていて、大黒柱の母としての存在感が半端ないです。
地方に行くといろんな風習や習慣に驚く事もありますが、島の東側は生ける人の住む場所、島の西側は死する人の場所(あの世)と言うのにもオカルトチックで少し怖い感じがしながらも普通に溶け込んでるのにもちょっと驚きました。
母親の遺体との対面はかなりショッキングでそれを素手で洗うと言うのもショッキング。
髪の毛がまだ残っていて、それを洗うと言うのは、生前の母親の姿と重ね合わせたら、かなり動揺します。
子供なら泣き叫んで、普通の大人でも酒を飲まないとやれないと言うのも納得出来ます。
でも、大切な事なんですよね。
ラストで優子の子供が産まれた時の母親の骨との対面もショッキングで異様に映る様にも見えますが、全体をきちんと通して観れば、この作品の伝えたい事が理解出来ます。
また、エンディングも良かったなぁ。古謝美佐子さんの「童神」がしんみりと心に染み入ります。
物が沢山溢れている都会が雑多で薄い物にも感じますが、決してそういう訳ではなく、自然に溢れた田舎が単純に素晴らしいだけでもない。
どちらも生きていくのに、とても大変な事が多い。
でも、生きる事と大事な人と別れる事。そして人としての家族との関わりと言う大事な事を改めて気付かせてくれた、素晴らしい作品です。
改めて自分の親不孝に心痛ですがw。
去年鑑賞した「鈴木家の嘘」と同じぐらいに良い映画に出会えた事が嬉しいです。
こういう作品にたまに出会えるからこそ、興味があれば、観に行くフットワークは大事です♪
重い所も多々ありますが、笑えて考えさせられる作品なので是非まだの方には観て頂きたい作品です。お薦めです!