「オムニバスとしてはよくまとまっている」詩季織々 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
オムニバスとしてはよくまとまっている
本作は中国・日本共作アニメと紹介したほうが正しい。3本の短編からなるオムニバス作品になっている。舞台は中国の都市で、登場人物もすべて中国人である。セリフは日本語ではあるものの、中国語吹替されれは違和感なく中国で上映できる。
総監督は中国・上海の李豪凌(リ・ハオリン)が務める。李監督は、中国を代表するアニメスタジオの"绘梦动画"(えもんアニメーション/英語名:ハオライナーズ= HAOLINERS ANIMATION)の代表である。この企画は、新海作品の「秒速5センチメートル」に感激した李監督による、コミックス・ウェーブへの熱烈ラブコールでコラボが実現したという。
ただ新海作品のCGチーフである竹内良貴をはじめ、日本人スタッフの大半が関わっているので、背景描写の描き方がそれである。例えば、北京や上海の街並みが、新海アニメ的な描写になる。
オムニバスのテーマは、中国の暮らしの基本となる"衣食住行"。
日本では"衣食住"だが、中国ではそれに"行=交通(外出)"が加わる。それぞれの短編作品が"衣"・"食"・"住"をテーマにつくられ、それを貫くようにオープニングとエンディングに"特別映像"を加えて、はさみこんでいる。特別映像は、空港ロビーにオムニバスの登場人物が勢揃いしており、未来への旅立ち="行"を表現している。
オムニバス映画は難しく、あまり良いパッケージに出会えることは少ない。テーマが明確でないとバラバラでまとまりがなくなるし、テーマを細かく決めすぎると、創作的な自由度が限られ、尺が短いためにオチがつきにくい。そういう意味では、本作はよくまとまっている。
爆発的な経済成長を迎えようとしている90年代の中国に少年期を過ごし、大人になった主人公たちが大切な思い出を振り返りながら、いまを生きていく。主人公の散文詩的なモノローグでストーリーが進んでいくのが、特徴的だ。
この企画に並々ならぬ思いがある李監督自身が手掛けた「上海恋」は、「秒速5センチメートル」にオマージュを捧げたというだけあり、すれ違ってしまった少年少女の恋ごころを、実に切なく表現している。
ちなみに"90年代"といっても都市開発や生活家電など、日本と比べて、10~20年くらい時差がある情景(日本の70~80年代)なので、カセットテープをペンで巻き取ったことのある昭和世代には懐かしく感じるが、平成世代にはピンとこない部分があるかもしれない。
(2018/8/5/ユナイテッドシネマ アクアシティお台場/16対9ビスタ)