「悲劇なのに悲劇にしない、ファンタジー」雪の華 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
悲劇なのに悲劇にしない、ファンタジー
いい意味で裏切られた。登坂広臣と中条あやみの美男美女ラブストーリー。余命宣告されている女性が人生初の恋をするために、いい男をつかまえて、ひと月限りの恋人契約する…と聞くと、どうせ都合のいい泣かせストーリーだと思ってしまう。
ところが、これはよくできている。
展開に無理がないし、まんまと伏線の”ガラス玉に映ったオーロラ”に泣かされてしまった。ああっ。
やはり岡田惠和のオリジナル脚本を褒めるしかない。悲劇なのに悲劇にしない。病名などは明らかにしないなど、シビアなリアリティ追求ではなく、ある意味ファンタジーだ。
設定は、"脆くはかないもの"で統一されている。"雪"、"雪の結晶(雪の華)"、"オーロラ"、"ガラス職人"、そして"生命"。
本作は、2003年に大ヒットした中島美嘉の「雪の華」(作詞:Satomi/作曲:松本良喜)をモチーフに書かれている。楽曲「雪の華」は、中島本人によって紅白歌合戦で2度歌われ、また国内外のアーティスト30組以上にカバーされている。まさにスタンダード曲である。
映画がファンド化した結果、"映画に疎い投資家たち"を口説くため、誰もが知っている失敗しないヒット作品を求めて・・・世界中の原作が争奪戦となっている。それは小説・マンガ・アニメ・伝説の有名人やリメイクなど、最近の映画を思い浮かべれば、8割以上がそのパターンだろう。
そんな中、もうひとつの"原作ネタ"が、作詞によるストーリー性を持ったミリオンセラー歌曲である。100万人以上がモチーフを知っていれば、大ヒットの近道ではある。考え方はうさんくさいけどね。
ちょうど、GReeeeN自身が脚本にも参加した「愛唄 -約束のナクヒト-」(2019)も公開中だ。こちらも別の意外性が楽しめた(そちらを読んでね)。
ヒット曲にはリスナーそれぞれの思い出やストーリーがある。なので、本来こういった映画化は、楽曲の世界を狭めてしまう。
中島美嘉も発売当初(2003年)には、楽曲に余計なイメージを付けたくないと、CMタイアップを拒否したほどの思い入れがありながら、15年も経てばいいのだろうか? 本人がいいなら、いいけど。
監督の橋本光二郎は、丁寧に美しい映像を紡いでいる。少しドローンに頼りすぎのきらいもあるが、特に日本人にとっては異国フィンランドの風景は新鮮に映る。あえて定番のオーロラは置いておいて、夏のフィンランドのシーンが見どころである。
中高生向けのしょっぱいラブストーリーが多いなか、主人公カップルがビールを飲んでいる、大人も見られるラブファンタジーである。
(2019/2/2/TOHOシネマズ日比谷/シネスコ)