「濃い恐怖と不安を描いた体験型の意欲作」ウトヤ島、7月22日 うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
濃い恐怖と不安を描いた体験型の意欲作
映画と言うよりは、すごく大仕掛けの演劇に近い。そこにカメラを持ち込んでやり直しなしの一発勝負で撮り切ったような作品。類似のものとして『クローバーフィールド』『1917 命をかけた伝令』などが挙げられる。
この映画の魅力は何と言ってもライブ感。実際に起きていることをその場に居合わせたような緊張感で体感できる。映画の冒頭でも注意書きが出るが、カメラが動きまくるので酔ってしまう人は苦しいだろう。音楽はほぼゼロ。よそから聞こえてくる音楽と、女の子が気持ちを鼓舞するために囁くトゥルーカラーズ(シンディ・ローパーほか)が使われているのみ。それもやり直しがきかない状況で歌ったものだけに、母親に抱っこされて聴いた子守唄のような感覚に近い。
いずれにしても、何もかもがやり直しなしの一発勝負で、始まったら止められない無編集のフィルム。映ってはいけないものや、映さないといけないもの。その複雑な段取りにはかなりの入念なリハーサルが繰り返されたものと想像できる。最後にやや長めの映画についての趣旨が綴られるが、「フィクションであり、ドキュメントではない」と、ハッキリ明言している。だとすれば、もう少し稽古を積んで見せ方を工夫してもよかったんじゃないかと思う。何しろもう一度見たいとは絶対思わない。
ほぼ素人に近い無名の若い俳優しか出ていない。例えば、5時22分ごろにここで撃たれた状態で倒れているように。とか、46分ごろこっちから向こうに一列で走って逃げて。とか、60人ぐらいの集団を複雑に動かしている。クレジットされている俳優さんたちと、エキストラの人数を見たら、かなり大掛かりの撮影のようだ。とにかく恐怖に耐える子供たちの表情は最後まで目が離せない。
ストーリーは、ほとんど無いに等しいが、主人公の妹や、親しい友達がどうなるのかが語られる。(というか、映っている)それ以外、犯人の目的、事態の収束、子供たちの運命、などの顛末が語られないままなのが非常に残念でならない。実際に起きたことを再現しているようなので、最低限の説明は挿入してほしかった。事件については、Wikipediaなどで知ることができる。先に見てしまうとネタバレになるし、映画の中で最低限語られるべきことだろう。そこは不親切と言わざるを得ない。
体験型の、非常に濃い恐怖と不安を描いた意欲作だ。子供には刺激が強すぎるかもしれない。
2020.2.27