「不思議感ただよう反ナチ映画」未来を乗り換えた男 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
不思議感ただよう反ナチ映画
原作は多分第二次大戦だったのだろう。その設定やストーリーをそのまま現代という舞台で描いた作品に仕上げ、主人公の語りはあるものの“彼”という三人称で押し通すため、かなり不思議な感じがするのです。ちなみに、現代を舞台にしてはいるけど、携帯電話はない。
ドイツからパリへと逃れてきた青年ゲオルクはレジスタンス仲間のパウルから密書を作家ヴァイデルに届けるよう依頼されるのだが、ホテルに到着すると、ヴァイデルは自殺していた。そのままヴァイデルの荷物を引き取り仲間のもとへ急ぐが、そこで見たのはナチの息がかかった警察に捕らえられている光景だった。
逃げるようにして重傷を負った男と指示されたマルセイユに向かうが、男は列車の中で死んでしまい、男の妻と息子ドリスの元に報告を入れるのだった。彼らは北アフリカからやってきた難民。8歳のドリスはサッカー好きで、母親はろうあ者。男の死を報告するのもドリスの手話を交えてだ。ファシストを手話で伝えるときにナチスの右手を挙げるポーズがちょっと笑えた。
さらにドリスの喘息発作のため、ヴァイデルの妻マリー、不倫相手の医者リヒャルトと知り合うこととなり、メキシコへ渡航する手続きなどで三人の関係が怪しいものとなるのだった。
少年との交流やマリーへの恋、戦時下であっても医者の使命を訴えるリヒャルト、さらには犬のおばさんなど、複雑に絡み合う独白調のドラマ。ただ、ドリスの件が置き去りにされるし、リヒャルトがどこまでマリーと真剣に未来を考えていたのかわからない点など、整理してみるとけっこう雑なことがわかる。さらに、いくら作家の目線とはいえ、三人称のモノローグでは感情移入もしにくいのだ。
原題TRANSIT は“通過ビザ”と訳されていましたが、自殺したヴァイデルがそのまま通過する関所みたいな存在だったのかもしれませんし、船を乗り換えた意味だったら、かなりネタバレ気味ですね・・・