希望の灯りのレビュー・感想・評価
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小さな楽しみを心の灯火に
ミハイル・ゴルバチョフがペレストロイカ、グラスノスチという政策を実行して、ベルリンの壁の取り壊しに至ったことを、ただ純粋にいいことのように思っていた。しかし東側諸国の人々がそれで救われたのかについては、思いが至っていなかった。それは資本主義=自由、社会主義=束縛というステレオタイプの考え方に脳が硬直していたからかもしれない。
人間の幸せとは何か、生き甲斐とは何かについて、改めて考えさせられる作品である。無口な主人公の控えめな生き方には、希望と絶望、怒りと諦めが互いにせめぎあっている内面がありありと感じられ、誰もが共感せざるを得ない。生きていることは悲しいことなのだ。
ドイツ語のタイトルは「通路にて」みたいな意味だと思う。フォークリフトが行き交う巨大スーパーの通路で陳列棚を挟んで主人公クリスティアンとマリオンが笑顔を交わす。
役者はみな素晴らしい演技だった。特にブルーノを演じた俳優は、これこそまさに中年男の悲哀という表情をする。人は時代に育てられて大人になり、大人になったら時代に飲み込まれて行き場を失なう。
しかし行き場を失っても生きていかねばならない現実がある。そこで人は小さな楽しみを見つけ出す。それは仕事が終わってから一杯だけ飲むビールでもいい。今日買った靴を明日の朝履くことでもいい。または職場の女性と昨日よりも少しだけ仲よくなることでもいい。
ドイツの人々にとって、ヨハン・シュトラウス二世は特別な音楽家なのかもしれない。「美しく青きドナウ」の旋律が広い通路に流れるように響き渡る。これを聞くのを楽しみにしている人もいる。
そういった楽しみを心の灯火にして、明日までは生きられる。しかしできることなら、他人から必要とされたい。無用と思われたら小さな楽しみも消えるだろう。
主人公が仕事帰りに顔なじみのバスの運転手に今日はどんな一日だったかを聞かれ、いい一日だったと答える場面は素晴らしい。仕事の愚痴は言うものではない。そんな優しさがあり、思いやりがある。いい映画だった。
小さい人たちの小さな物語
他の方のレビューにも書かれている通り、ほぼスーパーマーケットの中で繰り広げられる、あまり大きな起伏がないお話です。
なのに何故か嫌いじゃない。
世の中の片隅にスポットを当てた静かな物語。
静かな映画
静かな静かな映画。音楽と効果音がとても素敵な映画。不器用で少し不仕合わせで、昔の方がよかったな(多分、若いときが懐かしい、とも重なっていると思う)、でも今の幸せを多分、ゆっくり受け入れようとしている映画だと思いたい。
カウリスマキ風ではあるけど…
出てる人の顔が特に。100分にまとまってたら小品として楽しめたかも。125分は長すぎる。
スーパーの無機質な感じとフォークリフトのシーンは良かった。
打ち込める仕事があるのは幸せなことなんだなと思った。トラック運転手なら転職先ありそうだけどなあ。馴染みの仲間とやりたかったのかな。暖かくて小さな世界。
いい職場
始まって数分で眠っちゃいそうだなと思ったけど、一瞬も眠くなりませんでした。特に何も起こらないけど雰囲気がいいんだよなー。職場の人はみんないい人、あの店で働きたいくらいです。クリスマスパーティのシーンは本当に最高。
似ている田舎町のシネコンで
土曜日の夕方の回、観客は自分一人だけ。この寂寥感は映画に通じるものがあって不思議な体験。
映画と同じような千葉ニュータウンの端っこに立つシネコン。周囲には巨大なホームセンターや家電量販店、観覧車まであるショッピングセンターがある地域。チケットの半券を持っていくとコストコに一日体験入店ができるらしい。
舞台となる旧東ドイツの巨大スーパーは、コストコのような立ち位置なのかもしれない。
登場人物達は、孤独であったり、様々な問題を抱えている。観客は主人公と同じようにスーパーで繰り広げられる人間模様。確かに希望の灯りは灯ったように思った。
隣のおっさんがつまらつまらん呟いて喧しかった
確かに面白みに欠けるような気がした。映像は神秘的だったけれど、単調で暗い話に、率直な観賞者は「つまらん!」と一蹴するに違いない。正直、自分も長く果てしない時間にはまってしまったような感覚であった。この映画よりもかなり長尺の「トニ・エルドマン」と比べると(サンドラ・フラーが出ていたので─)、こっちのほうがものすごーく長く感じた。サンドラ・フラーが出ていなければ、おそらく耐えられなかった気がする。
とはいえ、そんなひどい作品ではないし、むしろ丁寧に作られた味わい深い映画だと思うのだけれど、楽しませようという意図がやや欠落している作品だと思わざるを得ない。まぁ、そういうのはこちらから積極的に貪ればいいだけのことなんだけれど...
細すぎる灯し火をたよりに。
なりたくてなったのだろうか。
ひとりぼっちに。
世界の片隅はあちこちにある。かの国も、この国にも孤独と戦う人々がいる。
ひとりぼっちの主人公が明日、会社に行くことを楽しみにしているシーン。
身につまされた…。
さみしいと死んでしまうのはうさぎだけじゃない。
ひとりぼっちの理由はきっとみんな考える。
諦めたり、生き方を変えたり、何かを必死に探してみたり、逃げてみたり、いろいろいろいろ試すだろう。
そして、なにかをつかんだつもりになる。
遠い知らない国の、身近なストーリー
ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツは合併したが、それまでの熱狂を覚えていても、その後の東ドイツのことは、ほとんど知らない。
おそらく、西側の資本や、効率主義などが、突然なだれ込んで、それまでの共産主義だけではなく、人々の人生まで否定するかのように社会は一変したのだろう。
この映画のスーパーマーケットを中心とした、従業員の交流は、世界中のあちこちにありそうな話のような気がする。
そして観る側は、クリスチャンが耳にする同僚の情報が頼りで、ふと、自分の生活も、そうした同僚や知人、友人などから寄せられる情報の上に立ってる部分が多いことに気がつかされる。
喜ぶ時も、悲しむ時も、焦燥感にかられる時もだ。
そして、考える。世の中が大きく変化しても、人々の根っ子の部分に大きな変化はないのだと。
好きとか、楽しいとか、悲しいとか、寂しいとか、過去から立ち直りたいとか、苦しさから開放されたいとか、そして、絶望も。
旧東ドイツが舞台だ。
だから、遠い知らない国の話かというと、実は、置き去りにされた日本の地方にも重なるところはあるのかもしれない。
ただ、世の中が変化しても、人々の心や生活は、それほど変わらず、何気ない機械の音に、行ったこともない海の波の音を想像したり、友人の死をなんとかして乗り越えようとしたり、やはり、人は生きていくのだと思う。
とても好きなタイプの映画
音楽・色や光の使い方が秀逸!スーパーマーケットという閉ざされた空間でこんなに色々な画が撮れるなんて素晴らしい。スーパーという小さな社会空間での人間ドラマというストーリーは、他の国・街でも起こりそうで共感できました。トニエルドマンの女優さんが出てました、味のある女性だな~。
何もない人こそ稀
旧東ドイツの会員制巨大スーパーの在庫管理担当で働き始めたつ口数の少ない青年とそこで働く人達の話。
大きなタトゥーを入れている主人公クリスティアン、隣のラインのお菓子部で在庫管理をする女性マリオン、クリスティアンに仕事を教える飲料部大ベテランのブルーノの3人を軸にそれぞれが抱える影と出来事をみせていくストーリー。
物静かで多くは語られず見せられずという展開ながら、3人の普通の人達が普通に振る舞い普通に生きる姿がしっとりと浸みた…普通って何だろうね。
目を見張るような演出はなく、終始まったりと静かに展開していくので、寝不足で観賞したら頭に入らなかったり落ち捲るかも。
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