希望の灯りのレビュー・感想・評価
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カウリスマキみたいと思ったら
やっぱりカウリスマキが好きらしいこの監督。
激情的人間ドラマが起こることもなく、労働者階級にスポットを当て、舞台となるスーパーマーケットの制服の青色だとか、真正面から大きく人物を捉えたシーン、カウリスマキ色がちょいちょい垣間見えます。
偶然か邦題もカウリスマキの最新作に似ている。
しかし単なる模倣ではありません。
一見無機質に見えるスーパーマーケットの中で、それぞれの想いを抱えながらフォークリフトを縦横無尽に操る人々はダンスをしているようにも見える…のはG線上のアリアをはじめとする、スーパーマーケットではかかりそうもない音楽に彩られているからなのかも。
とにかく音楽の使い方がいい。
労働者階級の職場という舞台で、静かな人たちが演じる話を殺伐とさせずかつ無駄にドラマチックにするでもなく、心にしみさせてくれるのは多分に音楽の効果なのだと思います。
俳優たちの抑えた演技もいいです。
特にクリスティアンを、マリオンを見守り続け、2人の行く末に安心したかのように去ってしまったブルーノ。
仲間たちが、長い付き合いだったのに何も知らなかったと呆然とするくらい、彼の中には誰にも知られず積もり積もったものがあったのでしょう。
初っ端からなにか深い想いをにじませているような顔だと思ったけれども、ああやっぱり、と納得。
最後の波音。
どこかに行きたいのにどこにも行けない、あの頃に戻りたいけど戻れない、鬱屈した彼らの心が求めるものが、この波音の聞こえる海だったり、大型トラックの列だったり、広く広がる大地だったりするのでしょう。
フォークリフトの教則ビデオは嘘でしょ〜と笑えますw
そこまで近づけて触れないのは、逆に罪ではないかと思うんですが、私、間違ったこと言ってますか?
温かなバイブレーションが絶妙
ここはコストコ?
旧東ドイツの郊外にある巨大スーパーが舞台。期せずして2時間前に観た「僕たちは希望という名の列車に乗った」は東西に分裂していた1956年の東ベルリンが舞台だった。
若い時はヤンチャで務所にいたこともあるという全身タトゥーで無口な青年クリスティアンが在庫管理係の見習いとして働き始めた。彼の仕事ぶりは危なっかしくて仕方がないが、ベテランのブルーノが気長に面倒を見る。一緒に働く年上の女性マリオンへの恋心もリアルだ。そりゃ好きになるだろう。
年配の従業員の東西統一前の時代へのノスタルジーをもしっかりと切り取る。このへんも今作のすごいところ。あの時代も悪いことばかりじゃなかったんだ。
それぞれ孤独で悩みは多いが、決して押しつけがましくない心のふれあいが、温かなバイブレーションを生んだ。映像も秀逸で、極めて地味だが珠玉の作品と言えるだろう。
人間が優しい
ドイツの倉庫内作業
近所の映画館での上映が終わりそうだったので、あわてて観に行った。
毎日を淡々と、いろいろありながらも明日からも生きていく。そんな映画。ゆったりと観れた。
横向きで座って乗るフォークリフトがたびたび登場。
一番高いところにある瓶入り飲料が結構重たいはずなのに爪を奥まで差さずに下ろしていて危ないと思ったが、思ったより爪が結構長くてしっかりささっていたようで安心した。
ハンドルきるのが早いから横の荷物に当たるんだから、もう少しまっすぐ後ろに下がってから曲がればいいのにと思った。
主人公の羽織っている制服がかっこよかった。
映画のときいつもそうなのだがヒロイン的位置の女性を最初見たとき、別に良いと思わなかったりするのだが、映画が終わる頃にはすっかり可愛かったり魅力的に見えてくるからすごい。
生きること…
ドイツの巨大なスーパーで働く人たちの
姿が淡々と描かれます。
登場人物の詳しいことは
全く描かれていません。
けれど、役者さんの
素晴らしい演技力によって
それぞれ背負っているものは、
きっとこうなんだろうなという
人生を垣間見せてくれます。
ドイツという国の複雑な遍路を
辿った背景が、慎ましく生きている
人々への人生を翻弄させ、色濃く絡んで
いるのだと思いました。
毎日ルーティンの生活の中で、
出会いがあり、人の優しさを感じ、
あるいは孤独を感じ、悲しい
別れもある…
それでも、日は登り明日が来る。
歩き出さないといけない。
生きる、生活して行くって
こういうことね、と 改めて
感じさせられました。
静かな映画から、頑張ろ!と
優しいエールをもらえました。
タイトルなし
この映画のBGMのプレイリストほしいな
音楽の使い方が斬新で素晴らしい。BGMでありながらシーンと全く調和せず、物語の外側から、独立して我々の耳に訴えかける。音に縁取られて、味気ないはずの光景がこの上なく美しく見え、別の意味を付加される。それだけで芸術作品のようだった。
ブルーノの死について、何も語られないのが良かった。人間の内面は詮索によって蹂躙されてはならないし、人間の死もまた、詮索によって蹂躙されてはならない。
「妻は寝ているから静かに」…思い出される彼の言動の断片が、奥床しく彼を愛おしませる。しかし彼の嘘や死の背後に何が有ろうと、クリスティアンにとっての彼は親身で根気強い先輩であり、ポツリと寂しげな郷愁を漏らす煙草仲間だった、それが残された事実だ。それだけで良いのだ。
クリスティアンは白痴的な美徳を持っている。マリオンを見つめる彼の表情(フランツ・ロゴフスキ!)。彼の純朴さ、彼の空白が、傍にいる人々の寂しさを誘い出す。彼の無口さは、彼が真摯に生きていることを感じさせる。
クリスマスが過ぎ、ブルーノがいなくなって、クリスティアンのフォークリフトの操縦が見る見る危うげなくなる様子に、また毎回の出勤時に上着の袖を整える仕草に、繰り返す日々は螺旋を描きながら上昇していくこと、今日はいつもの毎日と同じでありながら昨日とは違う今日であること、時間が静かに降り積もっていくことを感じ、それに対する監督の(原作者の?)愛ある眼差しを感じた。
寂しい人々が慎ましく生きながら、それぞれが何かに耐えながら、互いを尊重している。愛情に溢れた良い映画だった。
みんな言ってるよ、あいつはいい奴だって。
タイトルなし(ネタバレ)
☆☆☆★★★
「前を向いて行かなければ」
謎のタトゥーで無口な男のクリスティアン。
彼が見習い(おそらく)として働き始めるのは、会員型の大型業務スーパー。
※ 1 当初は毘沙門すら満足に扱え無い。そんな彼に1から手ほどきをするのが、東西統一前にこの地に在ったトラック会社を知るブルーノ。
そしてクリスティアンが密かに恋をする女性のマリオン。
映画は、1️⃣クリスティアン 2️⃣マリオン 3️⃣ブルーノの3章構造となっているが。ほとんど、働き始めるクリスティアンの目線から日常を追い掛けている…と言って良いだろうか。
この1️⃣章は、ひたすら淡々と続いて行くだけに。正直言って、少々睡魔との戦いとなり易い。
そんな最中。突如として、クリスティアンと同じタトゥーを入れた男達が登場し。途端に不穏な空気感が漂い始める。
「これはきっと何か起こる!」
どことなく暴力的な匂いが立ち込めるのだ!
そんな空気の中、2️⃣章のマリオンは。孤独なクリスティアンの心に微かな光を灯す存在となって行く。
そんな時に、ブルーノから《海》で聞かされるマリオンの事実。
クリスティアンがその時に見る、生簀の中で魚のもがき苦しむ姿。
それは、孤独に生きる自分自身の姿か?それとも助けを求める恋するマリオンの姿なのか?
そんなクリスティアンの葛藤する表情から。観客には「今度こそ暴力的な事が…」と、不安がよぎる。
だがまるで監督から「考え過ぎですよ!」と、ばかりに。諌められる様な展開へと移行するのが最後の3️⃣章。
このブルーノの章は、そんなクリスティアンとマリオンの2人を見つめて来た、ブルーノだからこそクリスティアンに語った本音が。
東西統一が生まれ。自由社会への変化に対応仕切れ無かった自分の情け無さに孤独との戦い。
だからこそ、2人はブルーノから教えて貰った。《本当の海の波の音》を聞く事が出来た。
前半は観ていてもそれほど興味も湧かず、もの凄〜く地味〜な内容でしたが。映画が進むにつれ。人間の孤独な心の奥底に寄り添い、そんな人々を慈しむ様に描いた秀作だと思いました。
2019年4月28日 Bunkamura ル・シネマ2
※ 1 以前に建築現場で働いた経験が有るのに。毘沙門の使い方が苦手…っては、ちょっと不思議ではありますが…まあ、映画全体には特に影響は無いですが(^^;;
【美しい音楽の流れる中、リーチ式リフトは全て観ていた・・・・】
しみじみする
まだるっこい語り口ながら、喪われた祖国への想いを感じる
東西統一後、しばらくしてからのドイツの大型スーパーマーケット。
場所は、旧・東ドイツの都市郊外だ。
店では、夜になるとフォークリフトが店内を移動し、在庫の補充をしている。
そんな中、内気な青年クリスティアン(フランツ・ロゴフスキ)は、ここでの飲料部在庫管理担当として働き始めることができた。
彼に付いた上司は旧東ドイツ出身の中年男ブルーノ(ペーター・クルト)。
無骨にクリスティアンを指導していくが、クリスティアンは通路ひとつ隔てた食品・菓子部の女性マリオン(ザンドラ・ヒュラー)と出逢い、心惹かれていく・・・
というところからはじまる物語で、骨子だけ取り出せば、まぁ、どこにでもあるたいしたハナシでもない。
特に前半は、冒頭の「美しき青きドナウ」に乗せて夜間の広大なスーパーマーケットを行き交うフォークリフトが甘美な映像ともいえるのだけれど、それはそれでやりすぎでもある。
統一後の東側青年には、それが甘美に見えるということなのかもしれないが、これは観客向きの映像、クリスティアンが観ることなどない。
というわけで、冒頭から少々懐疑的な観方になってしまったのだけれど、映画が内包している旧東ドイツの青年(いやブルーノも含めて老齢の男たちもだが)の立ち位置、そんなところが映画の中で屹立するのは中盤(というより終盤に近い)以降。
なので、映画の語り口としては、まだるっこい。
内容も映像表現もジム・ジャームッシュ監督やアキ・カウリスマキ監督に似ているところはあるけれども、それほど洗練されておらず、もっさりした感じで、30分ぐらい尺を縮めた方がいいんじゃないかといった感じ。
主人公が心寄せるマリオン役のザンドラ・ヒュラーのどうってことない色気と、質実剛健的な風貌のブルーノ役ペーター・クルト、それに主役フランツ・ロゴフスキの人生経験豊富なのにナイーブな雰囲気というアンサンブルは捨てがたい。
老兵はただ消え去るのみ
ものすごく好きなタイプの映画だ。
勤務先はショッピングセンターである。私も。
開店前のまだ照明の点いていない店内は神々しく感じることがある。確かにバッハやシュトラウスの壮麗な音楽が似つかわしい。
動かないカメラ。無機質な屋内空間にもかかわらずドラマチックな照明演出。レンブラントの絵を思わせる、人物の深い陰影。
そして、ごくありきたりの人々に起きる、ごく当たり前の出来事。
それが続いたあと、この職場に衝撃が走る。
もしかして、ブルーノ、お前もだったのか。
新入りのクリスチャンに仕事を教えたブルーノも恋していたのだ。
彼の家には最初から女房などいなかったし、マリオンのことをどうりでよく知っている訳だ。
たった一つの生きる希望を、将来ある若手に譲り、自ら命を絶つ。
失恋くらいで死ぬなよ。いい歳をして。そう言いたくもなるが、彼には他に何があるというのか。老兵はただ消え去るのみ。
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