「「あなた」の物語」ドント・ウォーリー つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
「あなた」の物語
四肢麻痺の風刺漫画家ジョン・キャラハンの自伝に基づく作品だが、内容はキャラハン個人のことよりももっと広く多くの人に訴えかけようと作られている。
なぜ風刺漫画家になったのかとか、批判の雨にさらされて悩むとか、そんな物語ではない。
キャラハンが酒浸りになった本当の理由が映画的によりセンセーショナルな性的虐待によるものにもかかわらず敢えて改変しているのには理由がある。
作品で訴えたい内容に対してキャラハンは真の被害者であってはならなかったのだ。
1日で嫌なヤツに一人あったならたまたま嫌なヤツに出くわした運のない日だった。
二人あったなら、そんなツイてない日もあるだろう。
三人あったなら、嫌なヤツなのは出会った人ではなく自分自身だ。
映画鑑賞に当てはめると、たまたま酷い作品を一つ観たなら恐らくその作品の出来が悪かったのだろう。
だけど、あれもこれもクソだゴミだと書き連ねるレビュアーの問題は、映画ではなくてあなた自身ということだ。
作品内に話を戻すと、卑屈で被害者意識高く孤独だと思っている男キャラハン。可哀想な俺に優しくしないのはお前らが悪いと思っている。
そんな彼がスピリチュアルなものに背中を押されて参加した断酒会で、少々宗教的ではあるけれど断酒のステップを踏んでいく中で、クソ野郎なのは自分に優しく接しない周りではなく自分なのだと気付き、受け入れ赦していく。
もう少し広く見るなら、キャラハンの風刺漫画に対してレイシスト的で不快と批判している人に対して、本当にレイシスト的で不快なのは漫画か?それともアンタか?と言っているようだと思った。
キャラハンが自分と問題のあった人々に謝罪をして回る中で出てきた人たちは、キャラハン自身が穏やかな赦しの心を持って接すれば最初から問題など何もなかったのである。
教師はキャラハンとのわだかまりなどなく、美術の才能だけを気にかけていた。介護センターの女性はギリギリまでキャラハンの面倒をみていたイイ人だった。
序盤に車イスから倒れたキャラハンを助け起こす、一見ワルガキそうな子どもたちも、穏やかな心で普通に助けを求めれば普通に助けてくれるし、心を通わせ共に遊ぶことだって出来るのだ。
世間が悪いアイツが悪いコレが悪いアレが悪いと不平不満ばかり言う人たちに対して、作品内でダニーが行っていた信念を広める行為のように啓蒙する作品だったと思う。
だけど、肝心の卑屈で孤独な悲劇の主人公だと思っている人には伝わらないんだろうな。だって自分だけは「特別で特殊な」悲劇の主人公で自分の怒りは妥当だと信じているからね。
ダニーも信念を伝えるのは難しいと言っていたし仕方ないかもな。