それからのレビュー・感想・評価
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シンプルな映像世界に、難易度の高い語り口がナチュラルに炸裂。
冒頭の長回しからどことなく夫婦間のぎこちなさがはびこり、ここから始まる物語が物語の基本軸かと思いきや、それに並行してまた別の時間軸が入り込んでくる。観客としてはあたかも「時空のねじれ」に遭遇したかのように少々戸惑ってしまうのだが、しかし慣れてしまえばこっちのもの。あとはもういつものホン・サンス作品と同様、クスクス笑いの連続沼に入り込んでいくのみ。モノクロのシンプルな作品に見えて、このような難易度の高い仕掛けを周到に炸裂させるあたり、この監督は本当に飄々としていて、すこぶる巧い。
彼の作品群では、出会いと別れ、それに色恋沙汰が不可欠なものだが、それにしても本作では何かのために簡単に「捨てる」という、現代社会を投影したような行為が印象的だ。また事態の不条理さに気持ちの良い態度で抗うヒロインの姿が忘れがたい。キム・ミニの好演もさることながら、ホン・サンスはいつもながら女優を丁寧に描いている。
ややこしい男女の機微をじっくりみせる
日本では昨今、不倫は厳しいバッシングを受けるものになったが、いや、もちろん以前から褒められるようなものでもなかったが、男女の関係には複雑な機微があるのだから、、、というエクスキューズの視点もあったように思う。そういうエクスキューズを表立って表明することは憚られる世の中になったが、本作はそういう機微を堂々描く作品だ。
小さい出版社で働く男は、一人の若い女性を部下に持っている。男の妻は彼女を不倫相手だと勘違いする。実際の不倫相手は彼女の前任者なのだが、これらの登場人物がすれ違ったり鉢合わせたりして、事態は静かに、ややこしく進行していく。
主演のキム・ミニと監督のホン・サンスは実際に不倫関係にあった仲だが、近年タッグを組んで不倫ものを連続で作っている。男の態度も話の展開も煮え切らないものだが、男女関係のリアリティとは本来そういうものだろう。ホン・サンスの観察眼が光る。
ある意味ホン・サンス監督作の入り口として最適な一作
夏目漱石の代表的小説を原案の一つとした本作(夏目漱石に言及する場面もある)。文芸作品を下敷きにしているということで、高尚な人間ドラマを予想しがちですが、本作の物語ははっきり言って下世話そのもの。妻に浮気相手の存在を知られて、しらばっくれているうちに別のスタッフが巻き込まれる、とまとめてしまえば元も子もないのですが、実際そういう話なのだから仕方ありません……。
やや武骨な印象を残しつつ、サンス監督作品ではあくまで柔和な人物を演ずることが多いクォン・ヘヒョですが、本作ではものすごく隠し事が下手な出版社社長に扮しています。開き直ったときのしらばっくれた表情のなんとも言えない憎らしさには、さすが名優と妙に感心してしまいます。
本作を含め多くのサンス監督作品は独特の会話劇が一つの持ち味ですが、時に会話の内容や状況をつかみにくく感じることもあります。その点本作は最初から最後まで痴話げんかと浮気の隠ぺい工作を描いており、非常に描写意図がわかりやすい内容です。それでいてつい引き込まれてしまうサンス監督流の会話手法はすでに完成の域に達しています。
このようにコメディーとして楽しみつつ、特徴的な作劇を堪能できるという点で本作は特に、ホン・サンス監督作品に触れたことのない人に入門編としておすすめしたい作品です。
同監督作品の常連となっていくヘヒョやキム・ミニらも顔をそろえているため、後続作品との描写の違いを比較しても面白いかも!
【ホン・サンス監督の巧みな会話劇を愉しむ作品。それから、ホン・サンス監督作品あるあるを記す。】
■アルム(キム・ミニ)は、評論家としても有名なキム(クォン・ヘヒョ)が経営する小さな出版社でキムが頼んでいた教授からの働くことになる。
何故ならば、キム社長はイ・チャンスク(キム・セビョク)というたった一人の女性社員と浮気をしていたが、お互いに気まずくなって辞めたからである。
出勤初日、アルムはキムの浮気を疑い会社に乗り込んできた妻(チョ・ユニ)に、夫の浮気相手と間違えられてしまう。
さらには、イ・チャンスクが戻ってきたことで、キム社長を中心とし男女間の思惑、狡さ、優しさが会話を通じて描かれる。
◆感想<Caution!内容に触れていません。>
■ホン・サンス監督作品あるある。
1.基本的に会話劇が中心である。
派手なアクションや、大きな事件は起きない、と言うか映されない。
全て会話に含まれる。
故に、ホン・サンス監督作品を映画館で観る時には、注意が必要である。
可なりの確率で、鼾をかいて寝ているオジサンに遭遇するからである。
2.固定カメラでのショットが多い。
構成としては、男女(複数の場合も多い。)が机を挟んで会話するシーンが多い。
特に、酒を呑みながら且つ食事をしているシーンが多い。
酒瓶は林立する事が多く、又男女問わず喫煙するキャラクターが多い。
故に、観る側は左右の男女の横顔を見ながら、二人もしくは複数の登場人物の会話劇を楽しむことになる。
3.常連の起用が多い。
監督のミューズであるキム・ミニが代表格だが、クォン・ヘヒョの登場回数も多い。ホン・サンス監督を投影しているような、作家や映画監督がメインキャラクターで登場する事が多い。
4.会話のセンスが、抜群に良い。
今作もそうだが、何気ない会話をしつつ、相手の腹を探り合う所など。
5.物語は、ドラマチックな展開は余りない。
が、物語が終わった時には、登場人物の立ち位置が微妙に変わっており、余韻佳き作品になっている。
<ホン・サンス監督は実に多作な方である。
そして、カンヌ映画祭での評価が高い。
画を見れば”あ、ホン・サンス監督作品だ!”と分かる画面構成や、優れた会話劇が高く評価されているのだと勝手に思っている。>
おもーしろーい
分かりづらい時制しばらく見てると、ああこれはさっきのシーンの前なのねとわかる感じでボケーっと見てられない。卑小な話題を扱ってるのに、この仕組みのせいかドンドン引き込まれます。キム・ミニと監督の関係を知ってから見たのは正解だったかも。優柔不断で煮えきらない男に監督が自分を投影してるのだとしたら大した男。そのうえ不倫相手にこの役をやらせる。全員大したもんだわ。お嬢さんで初めて見たキム・ミニあの役ができたのは今さら納得です。
残念ながら、期待通りでは・・・
登場人物が少ない会話劇は大好きなので期待して観たのだけど・・・期待外れだったなぁ。
冒頭からして、夫の浮気を疑う妻が「あなた他に女がいるんじゃない?」なんて鎌をかけるようなことをいうかな? 女性なら、しっかり調べて証拠をつかんでから、首根っこを摑まえるのではないでしょうか(笑)
監督は、優柔不断な中年男性の弱さを描きたかったのかな。とくに男たるもの強くあるべし、という縛りが強そうな韓国で、「男の本性」をさらすというのは勇気がいるし、新鮮に映るかもしれない。
でもせめてセリフや会話がいまいちなら、映像美や音楽を堪能したいところだけど、映像はあえて白黒にする効果が感じられなかったし、音楽は古くさくて、50~60年代の日本の白黒映画をみているようだった。
主人公の女の子は大学の教授が推薦するほど優秀な学生との設定だけど、ならばなぜこんな弱小出版社に就職を推薦されのか謎(笑)。主人公の出版社社長は、面接で、仕事と関係ないプライベートな情報を根掘り葉掘り聞きだすのも違和感があったし(日本でもそうだったのだから、韓国でも普通なのかな)、若い女の子が不遜な態度で社長や奥さんに相対するのも、現実はどうなのだろう。映画だからなのか。韓国は上下関係が厳しそうだけど。
フィクションだけど、人間関係のドラマだから、リアリティもほしい。
夏目漱石とは関係ないと思っていたら・・・
なぜモノクロームなのか?という疑問が常につきまとって、カラーにすればいいのにだとか、カメラをもっと定点にすればだとか、音楽をもっと使えばいいのにだとか、プロットとは関係ない方で考えさせられる。
評論家でもある小さな出版社の社長は「冬ソナ」のキム次長クォン・ヘヒョ。夫婦仲は順調のようでも愛人がいる社長だが、会社も辞めてしまい連絡が取れなくなったことから信頼できる教授の紹介でアルム(キム・ミニ)を雇う。しかし、社長夫人が浮気を疑い会社に乗り込んできて、ひと騒動。その後、社長、愛人、アルムの3人で食事をし、結局1日だけで会社を辞めることになってしまった。言ってみれば“身を引く”行為。
文学的、哲学的な会話において、「生きる理由」「実存性」「信じるということ」について語り合う社長とアルム。どことなく夏目漱石の「それから」を想起させるも、韓国での独自の解釈なのか?経済的理由がないのが残念だ。むしろ、家族について語り合う場面が多い。
浮気のシーンなんかは時系列通りではなく、社長の記憶の中でのエピソードなのだろう。そのおかげでアルムの出社一日目の流れに割り込んできて、一日という瞬間を感じられないのが残念だったし、彼女の「こころ」が失われたかのよう。失職しても大丈夫そうだし、彼女が高等遊民なのかとも思えたが、恋愛感情はなさそうだった。そして、終盤の再会ではパラレルワールドなのかと思わせておきながも、単に健忘症なのだとわかる・・・まじか。それでも夏目漱石の小説を渡すところでなぜかジーンとくる・・・
ダメだからこそお互いに手放せないのか? なんでも都合よく考えるぬる...
ダメだからこそお互いに手放せないのか?
なんでも都合よく考えるぬるま湯に浸かる様な二人の関係に、かなり不快感を覚えた。
馬鹿につける薬は無いくらいに思ったいたが、その後の展開があっさりしていて、浅はかさを感じたと同時に、やっぱり人の幸せを考える事こそが自分に反映されるよなと感じた。
スッキリと憑き物が落ちたラストシーンに、ホッとした自分がいた。
シンプルだけど登場人物の内面描写は濃い
あまり期待せずに観に行ったものの、想像以上の内容だった。モノクロ描写も味を出している。
アムルが社長に言った、公私を区別する分別、はその通り。
だけど、雇用1日目であのストーリーは重いし、自分だったら二度と立ち寄れない
チャンカンマン
また、かなり不思議で難解なモノクローム映像である。BGMもまるで昔のレコードを鳴らしているように、ブツブツと雑音が入ったような効果で、ここぞと言うときに演出されているタイミングである。
映像演出もパンやズームが家庭用ビデオカメラで撮っているような、表現は悪いが『安っぽい』表現になっているのも益々ミステリーを掻立てる。そして、題名は、まさしく夏目漱石の三部作の一つであり、ラストシーンで、女性にプレゼントする本である。
さて、ならば本作のストーリーと、漱石の作品と、一体どんな関係、又はオーバーラップなのか、影響要素があるのかというと、全く無学であり、文学的素養もない自分には、恥ずかしながらその関係性を見出すことは出来なかった。結局、共通項があるとすれば、本作では男が我が娘の姿を見て心を入れ替える、漱石作品では、主人公の男が、本当に好きな女の為に全てを捨てる、その覚悟みたいなものに帰着するということなのだが、しかしその帰着までの経過がまるで繋がっていないので、無関係の作品として捉えてしまうのである。観る人が観れば、違った解釈があり、そしてそのイマジネーションも又豊富なのだろうけど・・・
それよりも、単体で本作の鑑賞後の印象自体を感じた方が良いと思う。なので、漱石の作品や、それ自体の題名は、実際のところ雑音、ミスリードに陥ってしまい、折角の良さを殺してしまうのではないだろうか。
男の優柔不断さ、女の怖さやしたたかさ、そして働き出した女の一風変わった考え、宗教観や倫理観みたいなものが、それこそ、漱石の言うところの『ニル・アドミラリ』に通づるところで、一種、菩薩のような悟りで、そのおとぼけのようなキャラが、修羅場に絶妙のアクセントを水面に石を投げるように波紋が拡がるイメージを浮かび上がらせる印象である。
何のことはない浮気とそれがバレ、そしてそこに巻き込まれる無関係の女という、映像というより、演劇作品に近い造りなのだが、これもまた、ホン・サンス文学なのだろう。そういえば、漱石も“私小説”、そして監督も虚実入り交じるストーリー展開、こういうことが共有しているのかな?シーンの時系列がかなり難解なので、その繫ぎ合せも又苦労する作品であるが、これも又“ワールド”w
強烈な作家性、韓流アートであることは確かである。
外はマイナス3度、内面はドロドロ
無駄にリアルなディテイル。大雑把な構成。入り乱れる時間軸。捻れる会話。奇異な宗教観。これはまだ序の口。倫理無縁、同情無用なキャラクター。
タイトルなんてどうでも良いらしい。全くですね。オンナが喚いたり、怒鳴ったり、自分語りしたり、噛み合わない禅問答を仕掛けたりする真向かいで、オトコがにやけたり、泣いたり、上っ面だけの言葉を並べるのを、ただ真横から、じっとして見ていなければならない映画。
どんな罰ゲームだよ。
ふっくらしてようが、細っそりしてようが、俺は小さい手が好きだ。緻密で緊張感のある長回しは好きだけど、冗長な会話は勘弁。好きになれる要素、無かったです、この映画。
生き方に共感もシンパシーも感じないヒトの内面なんて、さらさら興味湧かねー!
ーーーーーー以下、解釈ーーーーーー
男との関係や生き方の全てに意味と価値を求めたがる女と、何んら深く考える事無く、食べて、飲んで、評論を書き、女を抱いて、その時々にしたいことをしているだけの男のコントラスト。女と男の両者を嘲笑するかの如き内容に、それらを鳥瞰するものを登場させる。ダイナミズムを極力排し、画面もモノクロにする。音楽など投げやりで構わない、いや必要無い。
概念は面白いと思いました。ただ、概念一発ものであれば、30分のショートフィルムに。ストリーそのものには意味が無いから、開始1/3部分は時系列をかき混ぜているのだと思いますが、もっと思いきりかき回して全てを半分に圧縮しても良いかと。何と言っても、冗長。
ただ、どうしても会話が会話になってないのは癇に障る。これも狙いでしようか?
どのへんが《それから》なんだろう
原作も良く覚えてないからね。《それから》と《門》が記憶の中でごっちゃだし。でも「こんな話じゃなかったような」と思いながら観てるの。
淡々と進んでくの。「あれ、時系列いじってる?」と思うところもあるんだけど、そうなのかも良く解らないの。
「それで結局なんだったんだ」と思うんだけど、観た後なんか面白かったなって思うの。
《正しい日、間違えた日》に似てるなあと思ったら同じ監督だった。というか特集上映期間だった。面白いから他のも観よ。
忘却
いや面白いわ。ホン・サンス、時間があったので久しぶりに観た。特に何がというと、女優陣の配置が素晴らしい。どう考えても美しいキム・ミニをそこに配置するのはともかく、愛人の女優のチョイスが素晴らしい。
そして忘れることの残酷さとリアリティったらない
嫁にひっぱたかれるより人生の深みと面白みがある
泥沼不倫の監督が描くダメ男の言い訳
面白かったなぁ
韓国映画なのに、まるでフランス映画を観ているかのような雰囲気の作品だった
主人公は小さな出版社の社長 ボンワン
彼は若い女性 チャンスクと不倫中
ある時、その不倫が妻にバレてしまい、妻は会社に乗り込むが、そこにいた新入社員のアルムを不倫相手だと思い込み、罵倒し、殴ってしまう…
その修羅場を観ていて呆れてしまうのは、優柔不断で甲斐性なしの主人公 ボンワンだ
既に愛情など遠い昔に無くしてしまった妻には強く出ることが出来ず
不倫相手 チャンスクの言いなりになり
新入社員のアルムを平気で犠牲にする
しかし、ホン・サンス監督とキム・ミニの泥沼不倫を頭の片隅に置きながらこれを観ると
社長と不倫相手の幼稚な関係を冷めた目線で半ば呆れて見ているキム・ミニの視線にぞっとする
そして、この煮え切らない男 ボンワンこそが、ホン・サンス監督そのものなのでは…と思えてくる
アルムにとっては、衝撃的で散々な一日だったのに
ボンワンにとっては忘れたい過去だというのが面白かった
皮肉なことに、ボンワンはある決断をしたことでいろいろな物を失うが、
それを起点にして仕事が好転し、飛躍する
これは明らかに夏目漱石の「それから」からの影響を感じさせる作品になっていて
ということは、それから、ボンワンは身を固めて仕事に邁進するということだけど
ラストシーンを観て
もしかしたら
そこから羽ばたいていくのは
アルムなのかもしれないなと思った
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