「変わる事のないスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス!」メリー・ポピンズ リターンズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
変わる事のないスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス!
あの『メリー・ポピンズ』に続編が作られると聞いた時、耳を疑った。
『メリー・ポピンズ』? 今更? 50年も前だよ? 需要性あるの…?
そう思った人は少なくない筈。
でも、実際に見てみたら…。
とにかく、ただただ楽しい楽しい、至福のひと時。
魔法使いの乳母が帰って来た!
昨今のミュージカルは現代的なセンスを取り入れた作品が多いが、本作はそれに逆行。
悪く言えば古臭い、でも良く言えば、昔懐かしい。
ハリウッド往年のミュージカルと再会したような、この雰囲気が堪らなくいい。
そこに、オリジナルを彷彿させるシーンや展開、オマージュの数々。
バンクス家とロンドンの街並み、提督の時報大砲、凧に2ペンスの話、義足の男の話…。
マイケルと3人の子供たちの親子関係はかつてのバンクス親子そのもの。
正直自分は、『メリー・ポピンズ』のメッチャメチャ大ファンって程ではない。普通に好きって程度。
それでも、これらオマージュには素直に嬉しい。
オマージュの最たるはやはり、『メリー・ポピンズ』と言ったらの実写とアニメの融合シーン。
オリジナルもワクワク楽しい見事な名シーンだったが、今回は技術がさらに進歩。
絵の中でなく、陶器の中へという凝りよう。スリリングな列車アクションも。
そして、『メリー・ポピンズ』の一番の醍醐味とでも言うべき、劇中彩る楽曲の数々。
正直楽曲は、オリジナルの方が好き。こればっかりはしょうがない。オリジナルはいずれも名曲で、言わばパイオニア。
でも、今回の新曲だって魅力的だ。
クライマックスの超ハッピー・ナンバーもいいが、個人的には、ジャックら点灯夫たちによるナンバー。アクロバティックなダンスも含め、圧巻であった。
欲を言えば、『チム・チム・チェリー』や噛まずに言えたら凄いあのチョー長い言葉のナンバーなどオリジナル楽曲ももっと使用してくれたら…と思ったが、オリジナル楽曲には頼らず、ほとんど新曲で勝負したのは好感。だって本作は、新しい『メリー・ポピンズ』なのだから!
『シカゴ』『NINE』『イントゥ・ザ・ウッズ』などミュージカルに手腕を発揮するロブ・マーシャルは勿論、オリジナルの大ファンだとか。
やはり愛あって手掛けると、違うね。それが伝わり、見てるこちらも幸せな気分に浸れる。
明るく楽しく、ハッピーにファンタスティックに、歌とダンスに彩られ…。
とことん、ミュージカル×ファンタジー!
世界観はその後。
メリー・ポピンズと再会したマイケルとジェーンは、「歳を取らない」「変わらない」と言う。
いやいや、ジュリー・アンドリュースじゃないじゃん!…と思うなかれ!
エミリー・ブラントが違和感なくメリー・ポピンズになっている。
ハリウッドの女優たちにとってメリー・ポピンズを演じるなんて夢であり、憧れ。と同時に、ジュリー・アンドリュースとの比較は避けようがなく、恐れ多い。プレッシャーや苦労は相当なものだろう。
そんな超プレッシャー難役を見事自分のものにしたエミリー・ブラントの魅力は、それこそ魔法のようだ。
歌やダンスは『イントゥ・ザ・ウッズ』でお披露目済みで何の問題ナシ。
“ジュリー・ポピンズ”と違ってちょっとツンとした感じの“エミリー・ポピンズ”は、何だか原作者のトラヴァース夫人をも彷彿。
厳しさと優しさを併せ持ち、ただ受け継いだだけじゃなく、新たに造り上げたメリー・ポピンズ像。
『プラダを着た悪魔』の助演で注目され、その後、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『イントゥ・ザ・ウッズ』『ボーダーライン』『ガール・オン・ザ・トレイン』『クワイエット・プレイス』と快進撃止まらぬエミリー・ブラント。
そんな彼女に、決定打的代表作誕生!
ジュリー・アンドリュースのように、メリー・ポピンズの人と長く親しまれるだろう。
オリジナルのディック・ヴァン・ダイクのポジションのリン=マニュエル・ミランダが、歌とダンスとナイスな役回りの好助演。
3人の子役たちも愛らしい。
嫌味な役所のコリン・ファースや出番はワンシーンだけだがインパクト充分のメリル・ストリープらも楽しそう。
ラストには、オリジナル好きには嬉しいサプライズであの人登場! まだまだご健在!
こうなってくると、ジュリー・アンドリュースにもゲスト出演して欲しかったの声がちらほら。
ディズニー側も出演オファーをしたが、断ったという。
今回はエミリー・ブラントの映画なので、自分が出たら邪魔になる。
大先輩の粋な気配りに拍手!
ストーリー的には予定調和のハッピーエンドで、ちと弱い。
でもしっかりと、メッセージやテーマは込められている。
大恐慌時代。人々は日々の生活に困窮。
時は瞬く間に流れ去り、子供は大人に。
不幸や問題に直面。
単なるハッピー・ファンタジーだけではなく、時代設定が昔であっても、私たちが生きる“今”とリンク。
そんな時だからこそ、今再び、メリー・ポピンズの幸せの魔法を…。
子供の頃はあんなにメリー・ポピンズの魔法を楽しんでいたマイケルだが、いつの間にか心の狭い大人になってしまっていた。かつての自分の父のように…。
オリジナルでもそうだが、メリー・ポピンズの一番の魔法は、大人に忘れ去った心を思い出させる。
また、子供たちの世話が専らの仕事だが、押し付けるのではなく、自分たちで行動させる。
家族の絆を見つめ直させる。
家族がそうなった時…
オリジナルもそうだが、ちょっと切ないが、役目は終わり。
風が変わるまで。
無くならないものは無くす事はない。
変わらないものも変わる事はない。
魔法使いの乳母が届ける奇跡と幸せ。
言わずにはいられないこの魔法の言葉と共に。
スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス!