「編集段階で大コケしたんだろうか」来る うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
編集段階で大コケしたんだろうか
ひどく疲れる構成のおはなしだった。
ホラー映画の上映時間の相場は90分と決まっているのに、監督は「僕自身はホラー映画を撮っている自覚はなくて」なんて語っているところを見ると、編集権を握って離さなかったのだろう。はっきり言って、ムダに長い印象が強い。
そして、才能のムダ遣い感。これが大きい。
監督の実績とネームバリューで、オファーを断らない俳優がたくさん集まった。特に、日本映画界で高く評価され、集客力のある岡田准一、松たか子、妻夫木聡、この顔触れがそろって、映画がヒットしなかったのは単純に「面白くない」からに他ならない。
致命的なのは、この映画に一本大きなスジが通っていないこと。どうして、霊媒師琴子を主人公として、ストーリーの軸を構成しなかったのだろう?そして「あれ」との対決を進行していくことで、とてもシンプルで皆が共感できる映画にできたはずだ。(まあ、それだとただの日本版『エクソシスト』になってしまうだろうが)
「あれ」との対決をめぐって、いくつかの角度で登場人物たちのドラマが展開するが、重複する描写も含めて、前半と後半のストーリーがまるで「章仕立て」のようにブロック構成されていて、時間軸も進んだり、戻ったりする。
この時間の使い方が、致命的につまらない。これは、編集段階でどうにでもできたはずで、画作りにこだわる中島哲也監督の信頼を得た、有能な誰かが、面白く編集できたはずだ。
いい素材がこれだけ集まっていて、全然面白くならないのだから非常に残念である。『下妻物語』『告白』『パコと魔法の絵本』『嫌われ松子の一生』いずれも女優の見たことのない一面を引き出した傑作で、この監督が好きになった。ところが、『渇き。』で、その信頼が揺らぎ、今回で絶望的に興行映画の世界から身を引いてしまった印象を受ける。
今作でも、松たか子、黒木華、小松菜奈の新鮮な一面は垣間見えた。特に黒木は、表の顔と裏の顔、それを共感できる一人のキャラクターとして破綻なく演じていて、女優としての強力なポテンシャルを感じた。映画が面白ければ、賞レースで評価されていてもおかしくない演技だと思う。映画全体でも、映像としての迫力も、演出も悪くない。それで面白くならないのだから、絶望的だ。
