「ホラーというよりはヒューマンサスペンス」来る といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
ホラーというよりはヒューマンサスペンス
ホラー映画は苦手ジャンルなのですが、この作品は映画好きの友人からの勧めや、アマプラで観られるようになってネット上でにわかに盛り上がっていることもあり、鑑賞いたしました。
事前情報を入れないように、予告編も観ずに鑑賞いたしました。
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製菓メーカーに勤める田原秀樹(妻夫木聡)は、恋人の香奈(黒木華)と結婚した。結婚後、香奈の妊娠をきっかけにイクメンに目覚めた秀樹は育児書を買い漁り、新生活のためにマンションも購入して生まれてくる赤ちゃんに期待を膨らませていた。そんなある日、秀樹の会社に「知紗さんの件で」と、謎の女性が来訪していると後輩から知らされる。「知紗」とは誰にも伝えていないこれから生まれてくる赤ちゃんの名前であった。結局来訪者の姿はなく、正体は不明。そして取り次いでくれた後輩は謎の死を遂げる。赤ちゃんが生まれてから2年後、田原一家に次々と怪奇現象が起こるようになり、秀樹は友人の伝手で怪しいフリーライターの野崎(岡田准一)と霊感の強いキャバ嬢の真琴(小松菜奈)と知り合い、怪奇現象に挑むのであった…。
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ぶっちゃけますと、あんまり怖くないです。
幽霊が出てくるし、悪霊によって人が死ぬグロテスクな描写もあります。でもあんまり怖くない。
この作品、Jホラーでは珍しく霊能力者がキッチリ仕事する映画です。
大抵のホラー映画では霊能力者は出てこないか、出てきたとしても無能です。だからこそ、何の力も持たない一般人である主人公たちが悪霊に次々と殺されてしまったり、「霊能力者でも勝てない」様子を見せることで、悪霊の恐怖を増大させる効果を狙ったりしています。だからこそ観客も恐怖を感じるのです。
この作品においては「未熟」と揶揄される霊能力者兼キャバ嬢の真琴ですら、霊能力者としての仕事をキッチリ果たしています。そんな優秀な霊能力者たちが何人も登場するのですから、観ていて「怖い」と思う場面が少なくて、「これだけ霊能力者がいれば大丈夫そう」という安心感があります。だからあんまり怖くない。
そもそも、中島監督は「ホラー映画あまり観ない」とインタビューで話されてますし、監督の過去作品「告白」「渇き」などの作品でも描かれていた「人間の醜い部分」みたいなのを描くのが得意な監督ですので、予告編などを観てガチガチのホラー映画を期待して観ると肩透かしを喰らうかもしれません。
実際、低評価のレビューをしている人のコメントを読むに「怖くない」ことを低評価の理由に挙げている方が結構いらっしゃいました。予告編を観ただけだと確かに純粋なJホラーのようなめちゃくちゃ怖そうなイメージですので、期待はずれと感じる人がいるのも仕方ないかと思います。
また、これも賛否両論のラストシーン。オムライスオチ。
正直私も面食らいました。「別のオチの方が良かったんじゃないか」とも思います。こればかりは、中島監督の独特な演出ということで好き嫌いが別れる箇所かと思います。
上記のような批判ポイントもありつつ、私はこの作品を高く高く評価しています。本当に面白かったです。
元々サスペンスものが好きということもありますが、適度にホラー演出もありつつ、人間の表裏があらわになる三部構成の演出とか、会話シーンが多いのに全然飽きさせない脚本とか、魅力的なキャラクターとそれを熱演する実力派俳優人とか、最後の大迫力の除霊シーンとか。もちろん原作の小説が賞を獲得するほどに面白い作品だからというのもあるんでしょうが、原作の面白さを活かしつつ大胆な改変を行っており、ここがこの作品の非常に面白いところだと思います。
「好き嫌いが別れる」ことは前提として、「私はめちゃくちゃ好き」な作品です。
「あんまり怖くない」というのはホラー映画好きからするとマイナス評価だと思いますが、私のようにホラーが苦手な人間からすると本当にありがたいんです。
ホラーが苦手な人にも、是非観てほしい作品です。オススメです。
【追記】
「襲われる理由も悪霊の正体も不明のままだからダメ(意訳)」という低評価レビューをしている方がいらっしゃって多くのレビュアーさんから共感を貰っていたんですが、それは劇中の琴子の「襲われる理由ではなくどう対処するかが重要」(うろ覚え)という台詞で、ある意味全部説明されていると思うんですよね。この作品においては「襲ってくる理由も正体も不明」なのが正解なんです。
リングにしろ呪怨にしろ着信アリにしろ、Jホラーって「呪いを回避するために悪霊の正体に迫る」というプロセスを踏む作品が多いんですよね。だからJホラーファンの方々って悪霊の正体に迫らないと気が済まないんでしょうか。