劇場公開日 2018年12月7日

「ホラーの基本がなってない」来る アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5ホラーの基本がなってない

2018年12月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

原作は未読である。「告白」の監督が手がけた本格的なホラーだというので期待して見たのだが,かなり肩透かしだった。ホラーとしては基本を外してしまっており,ほとんど怖くなかった。一方,映画としての説明責任を放棄しているかのような展開であり,いずれも非常にガッカリさせられた。

ホラー映画が成立するためには,いくつか不可欠な要素があると思っている。見た目が怖いこと,敵の発生理由が明確であること,敵が理不尽であること,観客に当事者意識をもたらすこと,解決が明確で観客にカタルシスを与えられることなどである。「リング」などの作品は,これらのいずれの要素もクリアしており,ホラーとして十分に楽しめる作品であったが,本作は,かなり問題があると思った。まず見た目はあまり怖くない。毛虫がたくさん出て来て,血もやたら流れるが,敵も被害者も人間の形をしており,せいぜい白目を向いているくらいである。発生理由は全く説明されていない。敵は理不尽であるが,敵の正体について観客にはほとんど知らされず,登場人物の一部のみが知っているだけというのであるから,脚本の方がはるかに理不尽である。話の展開上,観客は当事者になり得ず,自分に災難が降りかかって来ることはまずないので,単なる目撃者をやらされるのみである。最終的に,あの終わり方では,わざわざ観に来た観客に失礼ではないかと思った。

主人公の妻夫木は,いかにも現代にありがちな若者を演じており,リアルな家族より自分がネット上で作り上げた家族の虚像の方を大事にしているところなど,観ていて非常にイライラさせられ,あまり同情を感じなかった。その妻を演じる黒木も,自分の生みの母を嫌悪しながら次第に自堕落になっていく様子が目も当てられなかった。主人公の高校時代からの友人を演じている大学教員役の青木も,非常に忌まわしい存在であり,解決に協力しようとする岡田も過去に身勝手な行為を行なっていて,精神に負債を抱えていた。霊能者の姉を持ち,それに憧れるキャバ嬢の小松も,虚弱さを持った人間である。唯一,霊能者を演じる松だけが毅然としていたが,正体が不明のままというのは全く釈然としなかった。同様に霊能者を演じた柴田がお笑いをかなぐり捨ててシリアスな役に徹していたが,様々なバラエティ番組での言動がそれを許していないような気がして,最後まで違和感が抜けなかった。要するに,登場人物の誰にも感情移入ができないという困った話であった。

音楽は全く耳に残らず,演出も怖くしたければいくらでも方法はあるだろうに,やたら血をぶちまけるだけというワンパターンなものであったので,かなり残念であった。あれでお終いとしたのは,続編でも作るつもりなのかも知れないが,仮に作られたとしても,この出来では続編に期待できるものは何もない。これだけ能力の高い俳優陣を集めながら,それぞれにやり甲斐がある役とは思えないというところに作品としての限界を見た思いがする。率直に言って役者の無駄遣いという感じがした。唯一の収穫は,露出の高い小松の姿くらいであったような気がする。一人の人間を救うのに何人もの人命が犠牲になるという話は,プライベートライアンのようでもあるが,映画としての出来は,スピルバーグ作品と比べては失礼というものだと思った。
(映像4+脚本2+役者3+音楽1+演出3)×4= 52 点。

アラ古希