「あたしの居場所」シュガー・ラッシュ オンライン カミツレさんの映画レビュー(感想・評価)
あたしの居場所
※文章全体にわたって大幅な加筆修正を行いました。新たに書き加えた内容の中で一押しなのが、最後の「次回作の妄想」の箇所です。興味をもたれた方は、そこだけでもいいので、ぜひ読んでみてください。(2018/12/24 追記➀)
※ヴァネロペが劇中歌「あたしの居場所」を歌うミュージカルシーンの完全版がネット上で公開されています。英語版ヴァネロペのしゃがれ声と『スローター・レース』のクレイジーな世界観を堪能するのに絶好の動画だと思いますので、ぜひ一度ご覧ください!(コメント欄の方にもう少し詳しい情報を載せています。2018/01/16 追記➁)
1.本当は怖い!? 『シュガー・ラッシュ:オンライン』
まさか、『シュガー・ラッシュ』の続編に「怖い」とか「悲しい」という印象をもつことになるとは夢にも思いませんでした。
もちろん、楽しくてワクワクするような描写や展開もたくさんあるのですが、観終わった直後の率直な感想としては、「楽しい」とか「幸せ」よりもこっちの方が近いです。特に、終盤の展開と結末に関しては全くの予想外で、前作の可愛らしくて心温まる雰囲気を期待して観に行った人は、面食らうことになるかもしれません。かく言う私も、1回目の鑑賞直後には本作をどう評価したらいいものか途方に暮れました。
予告編の最後に「ディズニー、ここまでやる!?」というテロップが出てきますが、まさしくその通りです。まぁ、今のインターネットの世界を本気で描くとなると、どうしても楽しくてキラキラした部分だけでなく、おそろしい部分や醜い部分、ネガティブな面も避けては通れないということなのでしょう。
ただし、前作と味わいが全く異なるというだけで、本作『シュガー・ラッシュ:オンライン』はけっして駄作ではありません。ディズニーアニメとしてもかなりの異色作なので、評価は分かれるでしょうが、非常にユニークで考えさせられる作品になっていると思います。
※余談ですが、レビューを書くにあたって、この感想が本当に合っているか心配になり、2日続けて映画を観に行きました。2回目の鑑賞後もやっぱり「怖くて」「悲しい」と感じたので、この印象はあながち間違いではないはず……。
ちなみに、1回目は吹替版を、2回目は字幕版を鑑賞しました。両方を観た印象としては、前作に比べて大人向けのジョークや自虐的なネタが多く、物語もビターな(ほろ苦い)今作は、英語版のしゃがれ声のヴァネロペの方が合っている気がしました。吹替版の可愛らしい声も大好きなんですけどね。
2.最高に楽しい!インターネットの世界
ここまで本作のダークサイドばかりを強調してきましたが、序盤から中盤にかけては、文句なしに楽しくて笑える描写が満載です。ラルフとヴァネロペが初めてインターネットの世界を訪れるシーンでは、前作の「セントラル・ステーション」を数百倍にスケールアップしたような、圧倒的な情報量と無限に近い世界の広がりを感じることができて、それだけで感動を覚えるほどです。
小ネタも満載で、そこかしこに見覚えのある顔や名前が出てきます。ディズニーアニメ、マーベルシリーズ、スターウォーズから様々なキャラクターたちがカメオ出演しているのを見つけるたびに無条件で楽しくなりますし、インターネット関連の実在の企業やサービスも戯画化されて多数登場します。さらには、検索エンジンやポップアップ広告などが擬人化されて出てくる様子も楽しいです。検索エンジンの「ノウズモア」が検索候補を前のめりにまくしたてる姿や、ポップアップ広告がキャッチセールスのようにしつこくクリックを求める姿には笑いました。
そして、特筆すべきはやはりディズニープリンセスたちが一堂に会する場面です。絵面の圧倒的な豪華さもさることながら、そこで話される内容が、ディズニーアニメの自虐的なあるあるネタ満載になっていて、めちゃくちゃ面白いです。ここでの悪ふざけ感は、まさに「ディズニー、ここまでやる!?」といった感じです。
3.喜びとせつなさが入り混じる ヴァネロペのミュージカルシーン
本作の中盤以降に『スローター・レース』というゲームの世界が登場します。荒廃した街を舞台にした危険なレースゲームなのですが、ヴァネロペはその自由で刺激的な世界観に感銘を受け、そして、カリスマレーサーの「シャンク」に惹かれていきます。ちなみに、「スローター」という言葉を調べてみると、ビックリするような意味が出てきます。(ここではとても書けないような意味なので、気になる方は調べてみてください。)
前作の時点でも、ヴァネロペはディズニープリンセスとしてはかなり異色の存在だと思いましたが、この『スローター・レース』関連の場面を見ていると、やはり彼女はとびっきりのイレギュラーなのだと感じます。過去にも、長い髪を操って戦うおてんば娘の「ラプンツェル」や、世界を救うために故郷の島を飛び出し、大海原へと旅立つ「モアナ」といった異色のプリンセスはいましたが、ヴァネロペが憧れる世界観は他のプリンセスたちとあまりにかけ離れています。
彼女が作中で初めて本格的に歌をうたう場面では、『スローター・レース』の世界を舞台に、ミュージカルシーンが展開していきます。ならず者や荒くれ者たちがうろつく殺伐としたスラム街をバックに、歌い、ステップを踏み、車を走らせるヴァネロペの表情は喜びに満ちあふれています。 そんな彼女の姿を見ていると、たしかな昂揚感が伝わってくると同時に、「ヴァネロペの居場所は『シュガー・ラッシュ』ではなく、ここなんだ……」と思い知らされるようで、せつなくなります。
※これ以降、物語終盤や結末部分の内容にふれています。重要なネタバレを含みますので、ご注意ください。
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4.やっぱり怖すぎる! 終盤のラルフの大暴走
『スローター・レース』の世界に魅了され、元のゲームセンターに戻りたくないと思ってしまったヴァネロペと、早くゲームセンターに帰って元の平穏な暮らしに戻りたいラルフ──二人はすれ違い、ついには決定的な友情の危機を迎えます。
そこからのラルフの行動には驚きました。インターネットのことがよく分かっていないからといっても、親友がいるゲームの世界にいきなりウイルスを送り込むなんて……! 思えば、前作ではあまり深くふれられてはいませんでしたが、元々ラルフには30年間にわたって人々から疎まれ、蔑まれ続けてきた恨み・辛みがあります。その果てに初めてできた親友がヴァネロペなのですから、彼女に執着するのも無理はないのかもしれません。
しかし、親友を失いたくないと固執する「しつこく付きまとって嫌われる自滅的な部分」が友情を壊し──インターネットとは突きつめると人間関係の集合であるから──ひいては、インターネットの世界を破壊する(大意)。本作のクライマックスで描かれるインターネット世界の混乱は、この「ノウズモア」の言葉を具現化したものであるだけに、余計におそろしいと感じました。
ウイルスが暴走し、大量に増殖したラルフのコピーたちがインターネットの世界にあふれかえる様は、さながらゾンビ映画のようですし、コピーたちが群体のように集まり、一つの巨大なラルフを作り上げる姿は、一つ一つの個体が体細胞かあるいは虫のように蠢いている様子もはっきり見えて、かなり不気味でおそろしいです。ラルフにとってみたら、まさに「肥大化した自己が目の前に立ち現れている」状況であり、ディズニーアニメ史上屈指の悪夢的なイメージだと思いました。
5.ほろ苦く、一抹のさびしさが残るエピローグ(と、次回作の妄想)
クライマックスのラストで、ラルフは自分自身の弱さを克服し、巨大なラルフの手からヴァネロペを解放します。ここでは、ラルフの内面での決断が映像のイメージ(ヴァネロペから手を放す)と見事に重ね合わされています。また、エピローグのラルフとヴァネロペがお別れをする場面での、“半分に割れたハート形のメダルが、合わさって一つのハートになる”イメージは、二人の関係性を象徴しているようで、実に感動的だと思いました。最近のディズニーアニメは、テーマに関わる重要なシーンで、ちゃんと“映像で語っている”ところが素晴らしいなと思います。
「夢を見つけた親友のため、離れて別々の道を歩む」というラルフの決断は正しいことだと思います。──しかし、ゲームセンターに戻ってからのラルフのなんとさびしそうなことか! たとえ正しい決断であったとしても、そりゃあそう簡単に割り切れるものではないですよね……。
この部分を深く掘り下げて描かなかったことが、本作唯一の不満点ですが、エンドロール後のおまけ映像でもこの点を補完することなく、全力でおふざけに走っていたので、この問題は次回作に持ち越しということなのでしょう。(余談ですが、エンドロール後の“あれ”には、本作中で一番笑いました。ディズニーのスタッフは“釣り”もお好きなようですね。)
次回作について考える上で一つ気がかりなのが、リトワクさんのゲームセンターです。今作では、ゲームセンターに来ている子どもたちも、「セントラル・ステーション」を行き来しているゲームキャラクターたちも、前作の時と比べてかなり少なくなっていた気がします。新しいゲーム機もしばらく導入していないようですし、『シュガー・ラッシュ』の製造元の会社も倒産してなくなっていました……。今作のゲームセンター関連の場面では、全体的に“斜陽感”が漂っています。
ここからはあくまで私の妄想ですが、もし次回作があるとしたら──リトワクさんのゲームセンターが閉鎖されることになり、行き場を失くしたラルフたちが、インターネットの世界で新たな自分の居場所を探す──という『トイ・ストーリー3』のような話になるのではないでしょうか。今作のヴァネロペの姿は、その布石になっている気がします。
追記:“A Place Called Slaughter Race”ミュージカルシーン
ヴァネロペが劇中歌「あたしの居場所」を歌うミュージカルシーンの完全版が、ディズニーの公式チャンネルからY○uTube上で公開されています。今のところ字幕なしの英語版のみで、日本語吹替版の公開はなさそうですが、英語版ヴァネロペのしゃがれ声を堪能するのに絶好の動画だと思いますので、字幕版が気になっている方はぜひ一度ご覧ください。
上記の英語版タイトルで検索すれば、動画がすぐに見つかるはずです。
また、以前から公開されていたショートバージョンではカットされていた、前半部分のヴァネロペが街中を歩きながら歌う場面も見られるので、彼女が憧れる『スローター・レース』の世界観がいかにクレイジーなものであるかが一発でよく分かると思います。まだ本編をご覧になっていない方にもオススメです。
あともう一つの見所は、終盤の夜空を駆け月へと車を走らせるヴァネロペが、月の表面に何を見るか?という部分です。ここもショートバージョンではカットされており、実にもったいない!と思っていました。ぜひとも多くの方に見ていただきたいです。
bmbqwqさん、はじめまして。
レビューへの共感とコメントをいただき、どうもありがとうございます♪
私も前作が大大大大大好きで、初回の鑑賞直後は正直言ってかなり戸惑いました(笑)
翌日に再度本作を鑑賞し、このレビューを執筆しながら、ようやく気持ちの整理がつき、本作の良さや、作品が伝えてくるテーマがはっきりと見えてきた気がします。
次回作は絶対にある!(……と信じています。)
そして、次回作を観た後であらためて本作『オンライン』を観ると、さらに評価が高まるのではないかと思っています。
レビュー、とても興味深く読ませていただきました。
前作が大大大大好きで、不安と期待が入り混じったまま鑑賞しました。
見終わったあとは前作との違いに困惑しましたが、現時点でディズニーが出来る最高のものを提供してくれたと思っています。
モヤモヤとした気持ちを整理するにもぴったりなレビューでした。
次回作、きっと出ますよね!
楽しみにしてい待っていようと思います。
長文失礼しました。