劇場公開日 2018年12月21日

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シュガー・ラッシュ オンライン : インタビュー

2018年12月20日更新
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ネット時代に映画は生き残れる?「シュガー・ラッシュ オンライン」製作陣をロスで直撃

ディズニー・アニメーション・スタジオ最新作「シュガー・ラッシュ オンライン」は、同スタジオにとって、初めて前作と同じ脚本/監督チームによって製作された続編だ。既成概念をぶち壊し、ディズニー・アニメーションに新風を吹き込んだ前作「シュガー・ラッシュ」の“凸凹コンビ”はいかにして、スクリーンに復活したのか。本編完成を目前に控えた今年10月、米ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオを訪問し、リッチ・ムーア監督、共同監督で脚本も手がけたフィル・ジョンストン、プロデューサーのクラーク・スペンサーに取材を敢行した。(取材・文/内田涼)

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意外に思えるがディズニー・アニメーション・スタジオが、劇場用長編アニメーションの続編を製作するのは「ファンタジア2000」以来のことで、長い歴史を振り返っても、これが3度目のレアケース(もう1本は「ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!」)。それだけに、「シュガー・ラッシュ」の続編を作り始める上で「十分な理由が必要だった」とジョンストンは振り返る。

前作ではアーケードゲームの悪者キャラである“壊し屋”ラルフと、周りから仲間はずれにされた少女レーサーのヴァネロペが、ゲームの世界に迫る危機を救った。ときに衝突しながら、力を合わせた二人は、互いを思いやることで、自分の価値に目覚め、強い絆で結ばれたが、「シュガー・ラッシュ オンライン」ではそんな彼らの絆が試されることに。これぞ“十分な理由”だ。

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「友情とは変化するもの。特にラルフは、長年ゲームの世界で悪者扱いされ、自信のなさと戦ってきたんだ」(ジョンストン監督)、「つまり、『ヴァネロペがヒーローだと認めてくれるなら、僕はそんなに悪者じゃない』と思っている。そんな前作の結末は、当時の僕らにもパーフェクトに思えたけど、徐々に『いや、待てよ』と……。他人の物差しだけで、自分の価値を見出すのも問題だからね。ラルフが味わい続けた孤独を考えると、まさに試練さ」(ムーア監督)

こうして“再起動”した「シュガー・ラッシュ オンライン」は、ゲームの世界を飛び出し、無限に広がるインターネット空間で新たな冒険が繰り広げられる。毎日同じコースを走り、決まりきった勝敗に飽き飽きしていたヴァネロペにとって、そこは見るものすべてが新鮮で刺激的。一方、平穏な日常を守りたいラルフは、浮足立つヴァネロペが心配でならない。

ムーア監督は「ネットの世界にやって来たせいで、大親友だった二人の“違い”が浮き彫りになる。ラルフはそれが受け入れられないんだ」と主人公の不安を代弁する。一方、ジョンストン監督は「ラルフは大切な存在だ。でも、すべてではない。彼女は常にスリルと冒険、そして新たな出会いも求めているんだ」とディズニー・プリンセスきっての異端児・ヴァネロペの本音を語った。世界中が愛する凸凹コンビの友情の行方こそ、「シュガー・ラッシュ オンライン」の重要なテーマなのだ。

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ムーア監督をはじめ、第89回アカデミー長編アニメーション賞に輝いた「ズートピア」の製作チームは、本作のドラマ性をさらに深めるアップデートも忘れていない。ひょんなことから、動画投稿サイトで人気者になったラルフだが、素早いトレンドの移ろいに翻ろうされ、無数の中傷コメントを目の当たりにしてしまうのだ。

「説教くさくない形で、SNS社会が抱える負の一面を表現したかった。何気ない一言が、憎悪となって誰かを傷つけることを考えてほしかったんだ」(ジョンストン監督)、「キャラクターが葛藤する姿を通して、今の観客は考えさせてくれる“何か”を求めている。『ズートピア』に対するリアクションで、それを学んだんだ」(ムーア監督)

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ちなみに「もし、ネット上で作品への批判を見てしまったら?」と問うと、ムーア監督からは「傷つかないと言えば、うそになるけれど、より良い作品を生み出すため、僕らクリエーターは、自分たちの仕事を常に鋭く批判している。だから、図太い神経が身についているよ」と頼もしい返答。そんな心構えもまた、彼らが世界最高峰のプロフェッショナル集団たるゆえんだろう。

インターネットの普及が、映画をはじめ既成のエンタテインメントのあり方を大きく変えようとしている現代。プロデューサーの視点から、スペンサーには映画の未来について話を聞いた。老いも若きも、スマホが手放せなくなった時代に、映画はサバイブできるのだろうか?

「限られた時間の中で、人々が映画に目を向ける時間が減っているのは事実だね。映画は常に、台頭するライバルと戦い続けた歴史がある。テレビ、ビデオやDVDといった映像ソフト、そして今はインターネットだ。ただ、同じ空間で、大勢の人間が興奮と感動を共有できるという映画の魅力は、これからも色あせないと信じている。その上で必要なのは、すばらしい物語を生み出すこと。さっき、ムーア監督も言っていたけど、現代の観客は見終わったあと、共有し、議論できるような“何か”を求めている。エンタテインメントが多様化しているからこそ、映画にしかできない深みの追求を続けるべきだし、今回もそれは達成できたと思うよ」

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ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに目を向けると、今年6月にジョン・ラセターがチーフ・クリエイティブ・オフィサーからの辞任を公表。「アナと雪の女王」のジェニファー・リー監督が、クリエイティブ面のトップを務めることになった。2011年に「シュガー・ラッシュ」の共同脚本家としてウォルト・ディズニー・アニメーションに参加。現在は「アナと雪の女王」の続編「Frozen 2(原題)」を製作中だ。

「彼女とは『シュガー・ラッシュ』で一緒に仕事をしているし、僕自身、大ファンだよ。最高のストーリーテラーであり、それこそが(クリエイティブ面の)リーダーにふさわしい資質なんだ。具体的に言えば、物語に対する視点とセンス。いかに観客がキャラクターの気持ちに寄り添い、感情移入できるかを知り尽くしているんだ。だからこそ、僕はスタジオの将来に期待しているし、興奮を覚えているよ」(スペンサー)

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