「幸せはキャラメルの味」カツベン! movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
幸せはキャラメルの味
周防監督陣営の中に、黒島結菜が入り嬉しい。
そして、朝ドラわろてんかにも共通する世界観の中で、成田凌がわろてんかの延長線上のよう。どこまで信用できて頼れるのか曖昧な役がよく似合う。
引っ越しやサカイのおっちゃん、渡辺えり、永瀬正敏、竹中直人、森田甘治、成河が本当に良い味だしてて、勝手知ったるいつものメンバーの中でイキイキしていた。
若手の上白石萌音はまだわかるが、竹内豊や山本耕史、草刈民代など有名どころを脇やちょい役で使えるのも周防監督のキャリアの現れだと思う。
時代は大正。映画が活動写真と呼ばれていて、映写機でフィルムを回しながら、活動弁士が説明と台詞を生でアテレコしていた時代のお話。
貧しいながらも活動写真に憧れる少年と少女が、10年後もどこか変わらぬ生き方で再会。
成田凌演じる活動弁士に憧れて腕を磨いてきた少年は、ほんまもんになろうとしたくてヤクザの仕切る泥棒一味に加担し追われる身。
黒島結菜は若手女優として修行中、駆け出しの身だが、ヤクザの仕切る映画館に囲われそうになっている。
個人的には、成田凌の方が高良健吾よりもずっと遊んでそうな気がするが、高良健吾のヤナやつに振り切った色目で客を落とす弁士の演技は印象に残るし、成田凌の弁士として一生懸命熱弁を振るう姿勢が、1番セリフがある役として練習も相当頑張ったんだろうなと好感度が上がった。
偽弁士では?となんとなく勘づきながらも、ヤクザ一味の映画館に倒されないよう老舗個人経営の映画館主人として、成田凌に頼み込む竹中直人はいつも通り。ずっと自信がなくて腰低くやってきて、最後にキレる流れ。
偽弁士を追う竹内豊も活動写真が大好きで、でも成田凌の弁士としての技量ゆえになかなかニセ弁士とは気付かない。
みんながどうにか生き方を見つけている中で、人の弱みにつけ込み引っ掻き回すことで目を引こうとするヤクザの親分の娘、井上真央も役どころも化粧もよく似合っていた。
幸せはキャラメルの味って答えた黒島結菜演じる梅子は、生きていくためにいつも頼りたくない誰かに頼らないといけない育ち方で、でも唯一助けてと声を上げられた相手が成田凌演じる俊太郎だったのだろう。お互いに名前を、梅子から松子に格上げ、俊太郎から憧れの弁士、国定と変えて名乗っているが、実は中身はあまり変わらず、10年前同様、想いあってもすれ違って終わってしまう2人の関係性が切ない。
人の生き方や意思決定の仕方はどこで決まるんだろうか、産まれたときには既に決まっているんだろうかということも考えさせられる作品。梅子も俊太郎も必死に変わろう、夢を叶えようとしているがいつも同じような結末。お囃子の引っ越しのサカイも大金を手にしてもなお、同じ仕事に戻ってくる。ずっと愛してくれる男性を探しているような井上真央。一生懸命生きていても、変わらないさだめがあるのかもしれない。一方、7つの声色を持つ弁士と脚光を浴びて少年に夢を与えながらも、登れば登るほど、映画は弁士なしにも成り立つが弁士は映画がないと成り立たない情けなさを感じ、情けない仕事しかできない自分から逃げるように酒に溺れ堕ちていく永瀬正敏演じる弁士もいる。
現代もヤクザは都市開発に必ず肩を貸すし、都市開発の一環で鉄道社などが大きな映画館を建てて、わんさか人が流れる仕組みだが、大好きな映画のおおもとには、こうした人間模様がたっぷりあって、活動弁士という表現者のおかげで、映画を楽しめていた時代のとある映写館のお話、舞台設定がとても面白くて、台詞のかけあいも楽しくて、周防監督作の中で私は1番好きかもしれない。
流行り廃りや弁士の吹き替え方、色々あれど全員が映画をそれぞれの愛し方で大好きで、それはこの作品に参加しているキャスト全員も実際に映画好きなのだという感じられる。作品と現実が重なる感じも良かった。