劇場公開日 2019年12月13日

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「ドキドキワクワク、「カツベン!」には遊び心と映画愛が詰まってる」カツベン! yuriさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ドキドキワクワク、「カツベン!」には遊び心と映画愛が詰まってる

2019年12月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今から100年以上前、映画にまだ音声が付いていなくて、活動写真と呼ばれていた時代。
海外ではサイレント上映だったけれど、日本では弁士と呼ばれる人がその脚本を作り、生伴奏に合わせてナレーションとセリフを生で演じて、人気を博していた。そんな花形活動弁士に憧れた青年のお話。

まず、主人公が少年時代に、映画の撮影現場を見に行くシーンがなかなか面白いです。空が陰ると撮影出来ないので、カメラを止めて晴れるのを待ちますが、その間、皆はマネキンチャレンジみたいに静止している。声は入らないから、監督はカメラが回っている中で大声で指示を出しまくる。多少のハプニングは気にしない。役者は、内容には関係なさそうな「いろはにほへと」「ちりぬるを」なんて言っている。多分、実際のセリフは弁士が決めるから、何となく喋っているふりをすればいいのでしょう。
という事は、つまり、弁士によって映画の雰囲気どころか内容まで変わってしまう、という事なのですが、映像を作っている監督の頭の中では、どの程度まで出来上がっているのでしょうね。

本作では描かれませんが、映画はやがてサイレント(無声)からトーキー(有声)へと移行して、セリフの訓練をきちんとしていなかった役者の多くが消えていったそうです。同時に弁士も、次第にその活躍の場を失ってゆきます。
しかしそれはもう少し後、本作では観客は弁士の話術に聞きほれ、皆で泣いたり笑ったり、実に楽しそうです。この一体感も、活弁の醍醐味なのでしょう。

この映画の作風も、この時代を象徴するような、明るくて、ドタバタした感じ。まあチャップリンもこんな感じだったし、日本映画もそうだったんだろうな。
でも本作は、喜劇として良く出来ています。登場人物がクセ者揃いで魅力的。意外な人がコミカルな演技をしていて楽しい。セリフに他の映画のパロディらしいものもあります。作中のサイレント映画も面白そうだし、出演者が豪華。確認しきれなかったので、エンドロールをもっとゆっくり回してよ、と言いたくなります。
もちろんコメディは、そういう仕掛けがわからない人でも面白くなければいけませんが、合格ではないでしょうか。
本作の主役である弁士の口上がとても素晴らしい。主演の成田凌さんの弁士ぶりもですが、永瀬正敏さんの七色の声は、必見、いや必聴ものです。

と、かなり気に入っているのですが、あえて言うとしたら、自転車での逃走劇、ちょいとのんびりしすぎじゃありませんか。観ているアタシは昭和生まれ。でも、時代は今や平成を通り越して令和。壊れた自転車じゃまともに走れない。平成生まれのお客さんには、ハエが留まれそうな鈍臭さだったのでは?ここはスピード感を出した方が盛り上がりました。

ゆり。