「今や大人気のティモシー・シャラメが真っ先に退場。」荒野の誓い kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
今や大人気のティモシー・シャラメが真っ先に退場。
インディアンを総じて野蛮人として扱っていたかつての西部劇とはかなり違ってきている。いつの頃からか、NHKで放送される西部劇では「インディアン」という言葉は使われなくなって「先住民族」という言葉ばかりだ。差別用語を使わないようにしてるのはわかるけど、どうしても違和感が残る。金沢にはインディアンカレーという有名なカレー屋さんもあるのだけど、これも放送禁止か?と考えていたら、さすがにインディアンズの大リーグ中継はやっていた・・・
退役目前のジョー・ブロッカー大尉が上司からシャイアン族の酋長をモンタナ州居留地まで護送するよう命ぜられる。断ったら年金も与えないと脅されて、渋々大嫌いなインディアン一家を送ることになった。途中、コマンチ族によって家族を皆殺しにされた寡婦(未亡人という言葉も最近は使えない)ロザリー・クウェイドを保護し、旅の一行に加えることとなる。ここで家族の仇でもあるインディアン一家を出会ったロザリーの反応も鬼のような形相がまずは見どころのひとつ。インディアンは全て敵だという固定観念が抜けないでいるのだ。
そしてガラガラヘビのごとく、彼ら一行を襲撃してくるコマンチ族。ここでフランス人のシャラメくんが殺されてしまうのだ。英語とフランス語のチャンポンが和ませてくれたのに、もう笑えるキャラがいなくなった感じで、ここからは相当シビアなロードムービーとなる。映画館では10人未満の観客だったけど、シーンと静まり返る館内。『クワイエット・プレイス』や『ドント・ブリーズ』の比ではないくらいに音を立てづらい雰囲気なのだ。何しろ人間と馬を発見したら、こっそり忍び寄って襲ってくる敵。もう敵だらけ、原題そのままなのです。
コロラド州の中継地点ではちょっとのんびり。しかし、インディアン一家を惨殺した男、しかもジョーの元部下でもある男の護送も頼まれるのだ。そこからは居留地問題やインディアンが皆残忍であるという偏見の問題も含め、ジョー自身の過去の闇も暴かれてゆく。兵士となった以上、敵を殺すのが仕事。冒頭のD・H・ロレンスの言葉にもあるように、アメリカ人は人殺しなのだというテーマにも繋がってくる。本来、自分たちが侵略者であるにもかかわらず、先住民を殺したことによって復讐の連鎖が続いていた頃の話だ。しかし、とりあえず、シャイアンも加わって話し合いによって解決しようと説得され・・・
終盤クライマックスでは、モンタナに到着した御一行がそこで病死した酋長の葬儀、埋葬。白人たち、キリスト教信者たちの儀式とは全く違う光景がとても新鮮だった。文化の違いも興味深いものがあったし、コロラド州の美しい大自然を背景に癒しの映像も満載。こんなに美しい場所なのに、人々の心は殺伐としているというコントラストが絶妙に描かれているのです。そして、皮肉なことにインディアンたちとの和解の後にやってきたのは・・・という虚しさ。あの威張り腐ったオヤジがトランプに見えてしょうがなかった。
ラストでは汽車に乗って去ろうとするロザリーとシャイアンの子。このまま別れていいのか?ジョー。と、列車に飛び乗るジョーが何とも言えず男らしいというか、これぞ照れ屋の男。まさしくシャイやん!というオチでした。
インディアンスとレッドスキンズ。
差別的ということでチーム名変更というニュースが最近流れてましたね。
でも一方で勇敢とかいい意味での猛々しさの象徴でもあったのに。
賛否などの議論ではなく、個々人の受け止め方や伝え方で多様性への理解や融和を保てるほどの社会的ゆとりがなくなってしまったことが悲しいです。