「負け犬たちのOnce Again」ガチ星 kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
負け犬たちのOnce Again
ダメ中年の再挑戦と再生をとても誠実に描いた秀作。ものすごく良かったです。胸を打たれました。
元プロ野球選手で戦力外通告を受けてから完全に転落した主人公・濱島は、パチ屋と酒に逃げる・実家でクダを巻く・友人を裏切る等、数え役満のようなダメ中年。妻子にも逃げられ、ひとり息子には慕われているものの、もちろん彼にちゃんと向かい合えない。現役時代と同じ茶髪を中年になっても続けており、それがメチャクチャ汚らしくて、彼の内面を表現しています。惨めな甘ったれ中年、それが濱島です。
この濱島の造形がすごくリアルでした。彼はかつてスポーツエリートとしてチヤホヤされ、いい車に乗ったりしてました。そんな過去の栄光が忘れられないので、それにしがみついて新しいスタートを切る気持ちが生まれない。なぜならば、もう二度と輝かしい日々は戻らないことを理解しており、絶望があるからです。
ただでさえ中年以降の再スタートは、将来の可能性がかなり限定されます。九分九厘わかりやすいバラ色の結果は手にできません。長い時間堕落した生活を続けているとますます焦るものの、簡単にドロ沼からは抜け出せません。頑張っても未来がないから頑張る気持ちも生まれない。変わりたくとも、こんな生活止めたくとも簡単には変われないし止められないのです。この変われなさがリアル!痛い!
息子についた嘘をきっかけに、年齢制限のない競輪選手を目指す濱島。この競輪学校での濱島の態度がまた痛いんですよね。年下に威張り散らすとか、人としてダメな感じがリアルです。過去しかないから威張るしかない。ボロクソにしごかれるシーンも、濱島の態度を見ると同情や共感は難しいです。再チャレンジしているものの、謙虚ではないですから。あのシゴきは、濱島の傲慢さを打ち砕こうとしていたのだと感じました。
「もがけ!もがけ!」と怒鳴る教官。濱島はもがいているが、それは本当のもがきなのか?もがきのポーズなんじゃないのか、そんな風に教官は叱咤激励していたのだと思います。
で、なんとか卒業して競輪選手になった濱島ですが、再び茶髪にして酒とタバコの日々に逆戻り。本当にダメから抜け出せない。
本作はダメ描写が想像以上に長いです。本当に長い。いかに堕落した生活が長く続くとそこから這い上がれないかがすごい説得力で伝わってきます。中年の再挑戦はそれだけ難しいのです。
ダメなまま挑戦しても、結局無惨な結果が待っています。ある事件をきっかけに、ついに濱島は自らの内面と向かい合わざるを得なくなります。
これ以後の濱島の態度は、どのような困難にでも向かっていける人間の偉大さ・勇敢さ・可能性を感じさせるのもでした。人間は心の奥底で何かが決定的に変わると、180度態度が変わります。まるで生まれ変わるように。日本映画史に残ると言っても過言ではない、濱島の逆襲、過去への落とし前のつけ方は、是非劇場に足を運んでご覧になっていただきたいです。
本作は、ダーレン・アロノフスキーの『レスラー』とスタローンの『ロッキー』が混在したような、極上の負け犬たちのOnce Again映画でした。
主演の安部賢一さんも、これが最後のチャンスと決めて、本作のオーディションに挑んだとのこと。このエピソードも本作とパラレルになっており、映画に漂う魔力を増強してます。また、安部さん顔がいいんですよね、すげー汚くて、生々しくて。実際はさっぱりしたイケメンおじさまのようですが、本作ではリアルな役作りをされていました。今後の活躍も期待しています。
>「もがけ!もがけ!」と怒鳴る教官。濱島はもがいているが、それは本当のもがきなのか?もがきのポーズなんじゃないのか、そんな風に教官は叱咤激励していたのだと思います。
なるほど、素晴らしい視点。ありがとうございます!
>主演の安部賢一さんも、これが最後のチャンスと決めて、本作のオーディションに挑んだとのこと。このエピソードも本作とパラレルになっており、映画に漂う魔力を増強してます。
迫真の演技でした。それにはこういうエピソードがあったのですね。