「「明日はきっとえぇ日になる」という祈り」焼肉ドラゴン hhelibeさんの映画レビュー(感想・評価)
「明日はきっとえぇ日になる」という祈り
「たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる。」
冒頭にアボジがトキオに向かって言うこの言葉がラストで繰り返される時、トキオはもうこの世にいない。
2時間の間に観客はアボジが言う「昨日」がどれだけ過酷なものかを知らされる。
喧嘩しつつもいわゆる「絆」で結ばれていた家族はバラバラになり、彼らがこれから歩む道のりが決して平坦ではないことは、観客には容易に想像できる。
それでも、それでも、「明日はきっとえぇ日になる」。
それは願望というよりは、祈りのようなものだろう。
小さく古い家屋の中で大家族がひしめきあうさまは「万引き家族」と似ているが、日本人らしく淡々と生活しているあちらとは違い、こちらの一家は朝鮮民族らしく、事あるごとに喜怒哀楽を爆発させる。
毎日のように大騒ぎし、烈火のごとく怒り、殴り合い、大人の男でも声を出して泣く。
この騒々しさが苦手な人は、見ていてうんざりするかもしれない。
でも私は彼らのエネルギーにつられて、いっぱい笑って、肩を震わせて泣いた。
また「万引き家族」と同じく、彼らは歴史に翻弄された人々ではあるが、その半面ダメな人たちでもある。
アボジは家族のためにどんな時も頑張ってきたが、家の土地が国有地であることからは目をそらし続ける。
オモニは愛情深い人だけど、一度怒るとヒステリーで手がつけられない。
美人3姉妹も、それぞれにダメな所がある。
その中でも特に私が「嫌いだわ〜」と思ったのは、真木よう子演じる静花。
幼馴染の哲男が自分を好きなのを知っていて、自分も哲男が好きなのに、「妹のために」とか「私が我慢すればいいんだ」とか思って気づかないフリをしてやり過ごしている。
こういう、自分の欲望を表に出さず、ニコニコとやり過ごす女は、モテる。
次女の梨花は夫の哲男と静花に対してずっとイライラしてるけど、私は彼女の気持ちがよく分かる。
「あんたが「妹のために」って我慢すればするほどこっちはみじめになるし、迷惑なんだよ!」と言ってやりたい。
梨花にいい彼氏ができて本当によかった。
その梨花を演じた井上真央、本当に怒る演技が素晴らしかった。
どれだけ怒り狂っても、というか怒れば怒るほど可愛くなるという凄まじさ!
これからもブチ切れる演技をいっぱい見せてほしい。
それにしても、静花に恋をして一生懸命日本語を勉強して、いざ結婚!って段階になって目の前で他の男に取られちゃうイさん可愛そうだったなぁ…亀の子だわしとか言われるし…