時間回廊の殺人 : 映画評論・批評
2018年3月6日更新
2018年3月17日よりシネマート新宿ほかにてロードショー
アクロバティックなスリルと驚きに満ちた怪奇屋敷の殺人&失踪ミステリー
「シュリ」やTVシリーズ「LOST」のキム・ユンジンが美しき母親に扮し、その25年後の変わり果てた姿をも老けメイクで演じるミステリー・スリラーである。いわれなき夫と息子殺しの罪で投獄された主人公ミヒが仮出所し、忌まわしい惨劇の現場となった自宅に帰ってくる。25年前の夜、夫はこの家の地下室で何者かに刺殺されたが、忽然と姿を眩ました息子の遺体は未だ見つかっていない。はたして1992年11月11日の事件当夜、この屋敷で何が起こったのか?
映画はミヒが若きイケメン神父の助力を得て事件の真相解明に挑む“現在”と、25年前の“過去”の出来事を並行させて描くという典型的なミステリーの叙述スタイルで進行していく。ところが過去のパートに正体不明の侵入者が出現し、ミヒ親子を震え上がらせるあたりから予測不能にねじれ出す。調査にやってきた地相鑑定士は「この家には問題がある!」と脅えて逃げ帰り、巫女さんに頼らざるをえない事態となる。そのときスクリーンにいかなる超常現象が勃発するのかは観てのお楽しみだ。
かくしてミステリー、スリラーにホラーの要素まで加わった本作は、この3つのジャンルを横断しながら複雑怪奇にうねるストーリー展開こそが最大の見どころとなる。こうした欲張りなアイデアは映画そのものを破綻させかねないが、“韓国版「エクソシスト」”というべき意欲作「プリースト 悪魔を葬る者」で注目されたチャン・ジェヒョンの脚本は、後半にさらなるアクロバティックなギミックを用意し、観る者の予想を超える驚愕のクライマックスを創造した。1992年11月11日という具体的な日付けや25年という時間のスパン、さらには謎の侵入者との遭遇、何者かが主人公宛に記したメモといったミステリーの伏線を一気呵成に回収。それまで明快に区別されていた“現在”と“過去”のパートはいつしか渾然一体となり、タイムパラドックスやパラレルワールドの概念までも入り乱れる別次元のシークエンスが炸裂するのだ!
ちなみに舞台となる怪奇屋敷は、一見するとごく平凡な2階建ての一軒家であり、題名にあるような立派な回廊などどこにも見当たらない。しかし地下室にはどこに通じているのかわからない不可解な扉があり、その向こうには得体の知れない闇が広がっている。この無限回廊のごとき超自然の闇に“時間”というキーワードを掛け合わせ、変格ミステリーの興趣さえ打ち出した「時間回廊の殺人」なる題名には唸るしかない。早くも2018年洋画ベスト邦題の有力候補と認定する。
(高橋諭治)