彼が愛したケーキ職人のレビュー・感想・評価
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なんだか気持ちが安らいでいく。静かで優しく深みのある人間ドラマ
映画を観る前と後ではこれほど印象が変わるものなのか。私は本作のことを誤解していた。いや、宣伝云々に文句をつけるわけではなく、むしろいい具合に裏切られたと言っていい。これほど悲しみに満ちた物語だとは思ってもみなかったし、愛する者の喪失で空いた心の穴を埋めようと、二人の男女が不可思議な関係性を温めていく展開も予測がつかなかった。
ドイツとイスラエルにあるカフェ、そして「彼」を愛した過去を持つ男と女は、ある意味、互いの「分身」のような存在だ。彼らはこれまで互いに面と向かって会うことはなくとも、それぞれの存在や影は強く意識していたはず。そんな間接的な間柄だった両者がここで出会い、感情をぶちまけるわけでもなく、ただ日々の営みやクッキーとケーキの味わいを通じて静かに何かを積み重ねていく。そこにえも言われぬ妙味が光る。かつイスラエルの食文化をめぐるカルチャーショックも盛りだくさん。一見に値する秀作だ。
寡黙で力強く、余韻に浸りたい映画
食べることと愛することは似ている。どちらも生きていくために無くてはならないものだ。
食べることを愛し、自分以外の誰かを愛する。究極に突き詰めると、それこそが人生の意義だと思う。
「彼が愛したケーキ職人」は、この二つの事柄が極上にミックスされた映画だ。
何と言ってもトーマスの作るケーキやクッキーが美味しそうでたまらない。
あまり甘いものは好きじゃないけど、彼が作っている姿を見せられると、ふつふつと「食べたい!」という情動が沸き起こってくるから不思議だ。
ショウガの効いたクッキー、ザーネクレームたっぷりのシュヴァルツヴェルダー・キルシュ・トルテ。心を込めて作ったものを、愛する人が美味しそうに食べる瞬間の幸福。
また、食べたときの味と香りが思い出させる、大事な人の面影。
言葉少なく写し出される光景が、食べ物を通して確かな愛の記憶を刺激する。
社会的な側面で言えば、ユダヤ人とドイツ人の違うようで似ている部分が興味深い。忌憚なく言えば、かつて(あるいは現在も)「生命の優性」を標榜した民族同士。
その中において、思想よりももっと深い部分へ訴えかけてくるものがあるとしたら、それは愛であり、美味しい食べ物なんだろうか。
失った愛の拠り所を求めて、その人の面影を求めたり同化したりする一方で、どうしても愛を受け止めてくれる人を探さずにはいられない。
オフィル・ラウル・グレイザー監督によれば、今作品は「人生とフードとシネマに捧げる人間讃歌」なのだそうだ。
切なくても、傷ついても、やっぱり「愛する」って素晴らしいと、そう思わせてくれる力を私も確かに感じた。
とりあえず今はトーマスの作ったザーネクレームを、一口でいいから舐めてみたい。
感情移入が難しい。
好きになれなかった
懐かしい雰囲気が良い!
自然に手がのびて……うなじをさわらずにはいられない。
【ドイツとイスラエルの距離を超え、ケーキが取り持った二人の男と彼らを取り巻く人々の縁に魅入られた作品。異文化を理解する事の難しさと、それでも異文化を乗越える微かな希望を描いた作品でもある。】
ー 切ないストーリーである。
が、宗教、国家、性の壁を乗り越えるラブストーリーでもある。ー
小さいながらも評判のケーキ店をベルリンで営む若きケーキ職人と、彼のケーキを楽しみに定期的に店を訪れる男(途中で彼が、ドイツとイスラエルの合併会社で働いていた事が分かる)。そして二人はある事がきっかけで、関係を持つようになる。
だが、ドイツ出張の際には必ず訪れていた男と音信普通になり、逡巡していいたケーキ職人がイスラエルを訪れるところから物語のスピードは上がっていく。
男には妻(アナ・アドラー:今作と前後してサミュエル・マオズ監督の「運命は踊る」で、拝見し素敵な女優さんであると認識する。)と息子がおり、彼が不慮の事故で亡くなった事も判明し、今は妻が独りで店を切り盛りしている・・・。
ケーキ職人がその窮状を見かね、且つての愛人の妻(色々ややこしい・・)の手助けを始めるところから、更に物語のスピードは上がり、面白さも比例して増幅していく。
ユダヤ教にも色々な信仰レベルがあること、「コシェル」というユダヤ人の食物規定を知った作品でもある。
小品ながら、異文化を理解する事の難しさとそれでも微かな希望を描いた秀作である。
<2019年1月3日 旅先のミニシアターで鑑賞>
生地をこねる彼の手
ピュアな人達の映画❗
良い映画でした
ジーンと浸みるラヴストーリー
大人のラヴストーリーが足りない昨今、本当に観て良かった!
切ないけど、美しくて、主人公の悲しみが伝わってくる良作!
ひと昔前なら、浮気相手が女で
ちょっと有りがちな話になってしまいそうなところが
浮気相手が男だとこういう展開も有るんだな〜。
これはラヴストーリーの新しいジャンルとして面白い!
要するに真剣に人を愛する心に男も女もないんだよ!
しっとりとラヴストーリーに浸りたい方にはオススメです!
それと、これから観に行く方は、ユダヤ教には
食べ物に関する規定「コーシェル」と言う決まり事があり
現地イスラエルでは厳格に守っている方々も多くて
日本の様になんでもかんでも自由に食べて良い訳では無い!
と言うことをちょっと頭の隅に置いておくと
映画の中の出来事が理解しやすいと思います。
まさかと思うけど、
ユダヤ人とドイツ人の確執は知ってるよね?(笑)
で、月に8回程映画館に通う中途半端な映画好きとしては
年の初めにこんな映画に出会えて良かった!
主人公のドイツ青年トーマスを演じる
ティム・カルクオフが良い!!!
優しくて繊細な雰囲気が良い。
彼を愛したオーレンの気持ちが解る気がする。
でもそれって、普遍的に男が女に求めることなのかな??
彼の様な男性が未亡人の自分の店を助けてくれるのなら
女だって惚れちゃうよ!!
映画の序盤に
トーマスとオーレンの関係がすぐに明かされるので
この映画のキモはそこじゃないんだと解る展開も
ちょっとサスペンスっぽくて面白い。
同じ人を愛した二人の感性はやっぱ似てるんだな〜
私もいろんな食べ物のラベルのデザインが好きなものは
中身の味も結構好きなので解る気がする(違うか(笑))
亡くなったオーレンのお母さんが
トーマスを自宅に招いてオーレンの部屋を教えるシーンがある。
オーレンのお母さんは流石に「母」だから
オーレンが生前、本当の気持ちを告白していたのかもしれない。
とっても意味深なシーンだよね〜
とにかく、愛することも愛されることも切ないけれど、
なんと豊かな心の動く世界なのか〜〜
独り身のおばさんには羨ましくて仕方ない(苦笑)
唯一文句があるとすれば
トーマス君がもうちょっと痩せてた方が
もっともっとグッと来たかも〜〜(笑)
ぜひ、ご覧ください〜〜
@もう一度観るなら?
「DVDが出たら買って年一観たい〜〜」
トーマスの孤独は
込み入った人間関係を鮮やかに切り取るヨーロッパ映画の底力を見たように思いました
人生の機微を感じさせる作品です
宗教、不倫、ユダヤ人とドイツ人、ゲイあるいはバイセクシャル。歴史的・社会的な意味づけは、しばしば人の行動の規範となり、同時に足かせであり、しかし愛はそれらを軽く超える所にあるのでしょう。そして、愚かに見える行動の意味を求めて説明しようとすることの無意味さを感じました。
暗いと感じる人には暗い映画でしょうが、私には理知的な雰囲気が好意的に受け止められました。人生に対する深い洞察が、静かな空気感の中に流れ、それを感じ取る感性がある人には、良い映画であることが伝わると思います。それらは、監督の力量もさることながら、俳優さんたちの演技の秀逸さにも支えられていました。
ただ、昼ご飯を食べた後に見たので、睡魔とは少々仲良しになりました。
置いて行かれた2人。 ポッカリと空いた心を近づけたシナモン香るクッ...
ドイツとイスラエル、ケーキが繋いだ愛
とても切ない映画だった
ベルリンにあるカフェでケーキ職人をしているトーマスは、イスラエルへ帰った恋人を不慮の事故でなくしてしまう
その事実に愕然としたトーマスは、彼の故郷であるエルサレムへと向かう…
この映画の背景には、様々な困難がある
ベルリンで出会ったトーマスとオーレンはゲイのカップルであること
そのオーレンには、エルサレムに妻子がいるということ
そして、亡くなったオーレンを追ってエルサレムに降り立ったトーマスはドイツ人であり、ドイツ人は多くのユダヤ人にとって、因縁の相手であるということ
オーレンの妻アナトがトーマスを雇う時、ユダヤ教の厳しい戒律を遵守するアナトの兄が「よりによってドイツ人なんかを雇うなんて」というセリフを吐き捨てるシーンがある
そこには、未だにユダヤ人の中にはドイツ人を憎む人たちがいることが表れている
この映画は、そういった様々な困難を背景に、縁があって巡り合う3人の男女の姿が描かれている
そんな彼らを見て思うのは、人と人が出会って愛し合う時は、人種、ジェンダー、婚姻関係という様々な困難を軽々と超えてしまうということ
愛し合うというのは、理屈でも、肩書きでもなく、素の人間同士が化学反応を起こしてしまうことであり
それは、人種やジェンダーや常識が止められることではないということ
そして、この映画がとても良いのは、そんな彼らを繋ぐのが、トーマスが作ったケーキだということ
昔から「男を落とすには胃袋をつかめ」というけれど
男女問わず、料理が上手な人や、美味しいレストランを知っている人や、パティシエは確実にモテる
舌に残る「美味しい」という記憶は、その時に起きた出来事を一緒に掘り起こす
その町に訪れたことは忘れていても、そこで食べた美味しいご飯がきっかけで、町に訪れたことを思い出すことがあるのは、脳よりも舌が記憶しているからだ
だからこそ、この映画のアナトはトーマスのクッキーを食べてオーレンを思い出し、切なく悲しい記憶が、トーマスを引き寄せるのだ
人の感情とは難しいもので「差別や偏見を持たないでください」と言っても
その全てを消し去ることは、とても難しいし、きっと誰でも、差別や偏見を持ってしまう
その人それぞれに過去の経験もあるだろうし、生まれ育った環境もあるからだ
けれど、そんな困難を軽々と乗り越えられるものがあるとすれば、それは「愛」なんだと、この映画を観て思った
それぞれが、自分の中にある愛と向き合って生きていけば
きっと、ドイツとイスラエルの間にある忌まわしい過去からくる関係も、少しは良い方に改善できるのではと思った
そんな彼らの苦い関係の間に、甘いケーキを持ってきたところが、この映画のステキなところだなと思った
甘くて美味しいスイーツは、どんなに頑なな人の心も溶かすに違いないからだ
ケーキとコーヒーの美味しいカフェで、じっくり味わいながらお茶をしつつ、パティシエと会話をしたら、人生が変わるかもしれない
そんなことを思った映画だった
未亡人とゲイ
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