彼が愛したケーキ職人
劇場公開日:2018年12月1日
解説
イスラエルの若手監督オフィル・ラウル・グレイツァ監督が、同じ男性を愛した2人の男女の姿を描き、イスラエルのアカデミー賞といわれるオフィール賞で9部門にノミネートされたほか、国外の映画賞でも多数の映画賞を受賞した作品。ベルリンのカフェで働くケーキ職人のトーマスと、イスラエルから出張でやって来る妻子あるなじみの客オーレンは、いつしか恋人関係へと発展していった。「また1カ月後に」と言って、オーレンは妻子の待つエルサレムへ帰っていったが、その後オーレンからの連絡は途絶えてしまう。オーレンは交通事故で亡くなっていた。エルサレムで夫の死亡手続きを済ませた妻のアナトは、休業していたカフェを再開させ、女手ひとつで息子を育てる多忙な毎日を送っていた。アナトのカフェに客としてトーマスがやってきた。職を探しているというトーマスを、アナトは戸惑いながらも雇うことにするが……。
2017年製作/109分/PG12/イスラエル・ドイツ合作
原題:The Cakemaker
配給:エスパース・サロウ
スタッフ・キャスト
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2018年12月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
映画を観る前と後ではこれほど印象が変わるものなのか。私は本作のことを誤解していた。いや、宣伝云々に文句をつけるわけではなく、むしろいい具合に裏切られたと言っていい。これほど悲しみに満ちた物語だとは思ってもみなかったし、愛する者の喪失で空いた心の穴を埋めようと、二人の男女が不可思議な関係性を温めていく展開も予測がつかなかった。
ドイツとイスラエルにあるカフェ、そして「彼」を愛した過去を持つ男と女は、ある意味、互いの「分身」のような存在だ。彼らはこれまで互いに面と向かって会うことはなくとも、それぞれの存在や影は強く意識していたはず。そんな間接的な間柄だった両者がここで出会い、感情をぶちまけるわけでもなく、ただ日々の営みやクッキーとケーキの味わいを通じて静かに何かを積み重ねていく。そこにえも言われぬ妙味が光る。かつイスラエルの食文化をめぐるカルチャーショックも盛りだくさん。一見に値する秀作だ。
2021年3月17日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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まず、DVDのジャケットに裏切られました。出ました、装丁詐欺(笑) でも、良い裏切られ方です。
もうちょっと、ハートフルで明るい、「ザ・再生の物語」かと思ってたんです。甘かったです。所詮わたしも、花見で酒飲みゃあ昔の憂さなど忘れられる、明るい島国の人間だった訳です(そこまで言うか)。イスラエルを舞台にユダヤ人とドイツ人が繰り広げる話でした。そうでした。
全編を通して、物悲しい。「ともに喪失した者たちの孤独な共鳴」ということで言うと、古い映画だが「21グラム」を思い出した(ナオミ・ワッツ、ペネチオ・デル・トロ、ショーン・ペンが出てる重い映画)。
トーマスの孤独とヒロイン(雰囲気がシャルロット・ゲンズブール風ですね)の喪失に、ピアノの物悲しい旋律が寄り添う。
舞台が、たとえばパリやロンドンだったら――つまり相手がフランス人とかイギリス人だったら話は全然変わってくるのだけど、何せ、ユダヤ人。身内もユダヤ人。(ところで、オーレンのお母さんって、何か「気付いて」そうよね。母親の勘かしら)
トーマスがヒロインの息子イタイとクッキーにアイシングをするシーンの和やかさには、涙腺がゆるんでしまった(つーかほぼ全編、うるうるしてたんだけど)。
正体がバレて、ヒロイン本人でもなくオーレンの兄弟(ヒロインの義兄ってことは、そーだよね)から絶縁を言い渡され、パン種(だね)か何かを前に涙するトーマスが不憫で、、自業自得と言う人ももちろん多いと思うけど。
何というか、サイコパスと"子供っぽい"って、紙一重なのかなと思った。ハタから見た場合に。
確かに、「かつての不倫相手」がやってきて、ヒロインに自らの素性を明かさず深い仲になっちゃあいけないんだけど、たぶん、本人、全く悪気がない。
生前のオーレンが語ったやり方でヒロインにキスしてたところを見ると…同一視というか、喪失のショックから彼に成り代わろうとしている感じはしますね。
料理もだけど、特にお菓子作る人って、愛情深そうなイメージありますね。作って、全部自分で食べる人ってなかなかいないから。あげる人のことを、いつも考えてそう。
観てたら久しぶりにクッキー焼きたくなった。焼いてる最中の、あの匂いが充満してる時が幸せなのよね。
2020年6月27日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
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私自身信仰を持っていないので、信仰について100%理解ができないことを前提で鑑賞しました。ユダヤ教の戒律が厳しいことは何となくは知っていましたが、改めてユダヤ教についてググってみると、沢山の規定や規律があって、オーレンは同性愛や不倫などのタブーをおかしながらもトーマスを愛していたことが分かりました。また、トーマス自身もドイツ人がイスラエルで良くない扱いを受けることを承知の上で、住むことを決めています。
オーレンもトーマスも互いが対立し合う立場であるにもかかわらず、愛しあっていました。そんなふたりを観ていたら、ナチスの優勢思想やユダヤ教の選民思想、つまり排他的差別的な思想は、権力者が国民を上手く操る為のもので、監督がこの思想をふたりを通して否定的に描いていると感じました。
今作の監督が敬虔なユダヤ人かどうかは分かりませんが、作品から信仰に対するある種の息苦しさの様なものを感じました。それは、オーレンの妻であるアルトがトーマスを訪ねたラストシーンからも伝わります。信仰が生活を守ってきたと言われればそうかと思いますが、逆に信仰が人権をおかしていないと言えば嘘になるのではないでしょうか。イスラエルでも、信仰よりもパーソナルな権利が主流になりつつある過渡期を迎えている気がしました。
思いがけない名作でした。
2020年5月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
タイトルに惹かれてレンタルしました。
内容は出張先で不倫していた不倫相手である主人公と、その妻の物語。愛する人が何をしていたのか、どんな生活を送っていたのか、、、
雰囲気は綺麗でカフェでのコーヒーやケーキなどもおしゃれだったのですか、何故か好きになれなかったです。宗教問題や同性愛に偏見や嫌悪感などがある訳ではないですが、登場人物の行動やカットに納得出来ないというか。。。
惜しい映画でした。