「まだ暗くはない。けれど"そこ"に近づいている」30年後の同窓会 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
まだ暗くはない。けれど"そこ"に近づいている
自分も"アラフィフ(50歳前後)"だからなのか、登場人物に妙に共感する何かがある。とはいっても自分は、"元軍人"でもないし、もちろん"ベトナム戦争世代"でもないので、50代が持つであろう人生観に共鳴するのかもしれない。
リンクレイター監督は、"映画の尺"と"人生の尺"というタイムスケールを自在にコントロールする人だ。
リンクレイター作品が描く人生の尺は、たった1日の場合もあれば、2015年にアカデミー賞6部門ノミネートの「6才のボクが、大人になるまで。」(2014)では、"12年の実時間"が作品となる。前作「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」(2016)では、たった4日間の出来事を永遠に感じさせてくれた。
本作は約1週間のロードムービー。しかしそこに横たわっているのは30年という時間だ。
リンクレーター作品は無駄なシーンがなく、セリフが自然で滑らかにつながり、観客がその場にいるかのような共有の空気感を持っている。
30年ぶりに再会した、元軍人の3人。旧友に会いに来たドクは、1年前に妻に先立たれ、2日前に息子が戦死したことを打ち明ける。サルとミューラーの旧友2人に米軍基地まで遺体を引き取りにいき、息子を故郷で慰霊するために同行してほしいと頼む。3人は車や列車で旅を共にし、語り合う中で30年の時間を埋めていく。
独身で場末のバーを経営するサル。ベトナム戦争の過去を捨てて牧師になったミューラー。対照的な2人のやり取りが最高だ。"自分に正直な楽天家"と"神に正直な聖職者"がドクに語りかけるセリフは、まるで"天使と悪魔のささやき”である。
そして3人の間には、30年前の秘密の出来事がある。3人を演じるスティーブ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーンの演技合戦がこのストーリーに厚みを持たせている。とりあえず区切りをつけるものの、すっきりした結論があるわけではない。
ボブ・ディランの「Not Dark Yet」(1997)がエンドロールで流れるのが印象的だ。
♪It's not dark yet, but it's getting there. (まだ暗くはない、けれどそこに近づいている)
青春をかけた過去を振り返りつつも、まだ残された人生がある微妙な世代。"そこ"とは、人生をかけて探している"答え"なのか。あるいは死んでしまった家族や友人のいる向こう側なのか。
(2018/6/8 /TOHOシネマズシャンテ/ビスタ/字幕:稲田嵯裕里)