「死と破壊」ラッカは静かに虐殺されている いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
死と破壊
シリアのラッカでのISの酷業をジャーナリストとなった市民が危険と隣り合わせでありながらもSNSを駆使し世界へ地獄の惨状を報道する姿を追うドキュメンタリーである。ドキュメンタリー映画としては大変エモーショナルに演出されており、BGM、編集、カメラワーク、マットな画質等、イギリスのBBCのドキュメンタリーを観ているようなハイセンスな出来映えである。身の危険を感じた創立メンバー達が国外へ脱出し、国内に残る仲間達と連携を取りながら報道ソースを世界に発信するのだが、勿論ISもその状況を許す筈もなく、仲間や肉親の処刑、又逃亡先の国のISシンパに対する暗殺命令など、あらゆる仕打ちを彼らに仕掛ける、それに輪を掛け逃亡先の右派に拠る外国人排斥運動も立ち上がってくるのだが、それでも自由の為に報道で闘う姿をドキュメンタリーぎりぎりのドラマティックな編集が施されている作品である。
彼らの言う『ISは思想』という言葉に、このいつまで続くか分からない非道の虚無感に否が応にも苛まれてしまう。人類有史から続く戦争の虚しさをいつになったら人間は気付くのか、はたまたこれは人間の本質なのか、本当に心が折れてしまう。映像では、比較的耐えられる処刑シーンが差し込まれているので、鑑賞するにはそれなりの覚悟が必要と思う。彼らのような高等教育を受けた人だからなのか、キチンと今の世界情勢を鑑みながらの分析力の深さにも敬服する内容にもなっている。尚、現在はISが弱体した後、クルド人、又は欧米の空爆、そしてアサド政権との戦いというもっと深い混沌がラッカを支配し、益々状況は悪化の一途なのとのこと。この町の希望は果たして訪れるのだろうか、本当に心から深い悲しみに途方に暮れる。タバコを吸うシーンが多く撮られているのは、イスラム教に於いて酒が飲めない戒律上、唯一の精神安定剤なのだということが切実に表現されていてかなり痛々しい。